静岡県富士宮市で1981年から続くお食事処としを経営されている松下一さま。
2019年からは『やどかり弁当』の利用によりデリバリー事業を拡大し、順調に売上を伸ばし続けていた松下さまは、2022年には障がい福祉事業のコンサルティング『はぐくみ弁当』に取り組み、就労継続支援A型事業を開始しました。
2024年7月現在では36名もの障がい者を雇用し、今後さらに福祉領域での事業展開を考えている松下さまですが、40年以上の歴史がある地元に根ざした飲食オーナーがなぜ福祉領域で展開していこうと考えられたのか。
松下さまのこれまでの背景とこれからのお取り組みについて、GLUGのコラム編集部の山木がお聞きしました。
課題
- 飲食店としての売上を上げる必要があった
- キャッシュフローの悪化によるプレッシャー
- 適切な採用ができていなかった
実行
- デリバリー事業『やどかり弁当』に取り組み
- 福祉のコンサルティングも受け就労継続支援A型を開始
- GLUGのサポートのもと採用を改善
結果
- 24年度に約1億4,500万円の売上見込み
- 36名の障がい者雇用に成功
- 他の福祉事業にも進出する計画
紡がれた歴史を絶やさぬよう必死だった
山木:あらためて、どのような背景があってGLUGの『やどかり弁当』ならびに『はぐくみ弁当』にお取り組みいただいたかお伺いさせてください。
松下さま:私自身は元々、大型トラックの運転手をしており、「お食事処とし」は父親が経営していました。
ですがある日父が倒れ、これまで5年ほど店舗の運営を手伝っていたこともあり、「地域に愛していただけているこの店を途絶えさせてはならない」という想いで事業を継ぎました。
決意し事業継承したは良いものの、日々の店舗運営は想像以上に忙しく、それでいて思っていたよりも売上を上げることが難しかったんです。
そんななか、「店舗の空き時間・空きスペースを活用したデリバリー事業で売上を上げましょう」という提案をGLUGの営業の方から受けるタイミングがありました。
これまでロケ弁などで多くのお弁当を作る機会もあり、それが毎日のように売れるのであればと『やどかり弁当』を始めることにしました。
その後お弁当の販売個数は順調に伸び、売上も拡大したのですが、そのタイミングでコロナが訪れました。
お弁当は安定して売れ続けましたが、店舗への来客数が減少し、再度「何か手を打たなくては」というピンチに追い込まれるなか、GLUGの営業の方から「デリバリー事業に福祉を組み合わせたビジネスモデルがある」と聞きました。
福祉事業については未経験でしたが、実際にやられている店舗の見学会に参加し経営者の方に話を聞いて、これは事業を継続・拡大するためにすぐにやった方が良いと感じ、取り組むことを決めました。
福祉施設ということもあり、利用者さま(施設を利用する障がい者)に幸運や幸せをもたらすことができる場所にするため『クローバー』という事業所名にし、事業をスタートしました。
苦しさはあった。しかし利用者さまは心配ないどころか戦力になってくれた。
山木:未経験から福祉に取り組むにあたり、大変なこともたくさんあったと思います。一方メリットもあったかと思いますが、お取り組みいただいてどうだったか教えてください。
松下さま:一年目は金銭面でのやり繰りに頭を悩まされました。
就労継続支援事業は国の報酬とのタイムラグによって一年目は赤字になる事業であるとは聞いていましたが、キャッシュが減っていくことによるプレッシャーは想像以上でした。
一方、分からないことはすべてGLUGがサポートしてくれるため、それ以外に大きく大変ということはなかったように感じます。
障がい者の雇用という初めての経験になる点も全く気にならず、むしろ熱心に働いてくれるため、自分自身が経営者として動ける時間も増えました。
最初は利用者さまが休むタイミングで自分も現場に出る必要がありましたが、いまでは利用者さまも36名まで増え、支援員と利用者さまで現場を回すことができています。
また、お弁当の領域では店舗の常連のお客様からの注文が増えたり、障がい福祉の領域では特別支援学校や放課後等デイサービスを利用している知り合いからの利用者さまとしての紹介があったりなど、もともと存在していた人間関係からいまの事業につながることも多く、そういう意味でいえば相乗効果はあったなと感じますね。
始めて終わりじゃない。経営者として、そして福祉としても責任がある
山木:障がい福祉を始めて、どのようなポイントが気を付けるべきで、どのような今後の課題があるでしょうか?
松下さま:現在は36名もの利用者さまに通所していただいていますが、経営者としてはやはり採用のタイミングと軸は意識するべきだなと感じますね。
弁当事業が売上をつくるためのメインの軸となるので、ロスを減らすための食材ロットや食中毒を出さないための意識は当然なのですが、福祉事業として給付金をどのように増やしていくかも重要なポイントです。
先ほどお伝えしたよう、給付金のタイムラグがある以上は闇雲に利用者さまを増やせば目先のキャッシュフローが悪化しますし、事業所としての支援方針と異なる採用をしてしまえば利用者さまも支援員も幸せになれません。
GLUGからのサポートで言われてきたことではありますが、「利益を増やそう」という軸で考えていては上手くいかず、「一人ひとりに最適な支援をしよう」という考えのもと事業所を運用することが結局のところ利益につながるものだなとひしひしと感じています。
だからこそ従業員には事前にしっかり飲食事業から福祉事業としての転換について丁寧に説明しましたし、当時は従業員からの反対もなく、いまとなっては自身が心配しなくても適切な支援ができている環境がつくれています。
どうしても開業当初は利用者さまを増やすことに目がいってしまっていたなと思いますが、現在では「利用者さま一人ひとりにしっかり適切な支援ができるか」という視点で考えるようになってきており、そのためには居心地の良い環境をつくるだけではなく、「社会生活をより自立して生きるためには」という観点から少し厳しいことも言っていかねばならないと感じています。
弊社は福祉事業としていま3年目ですが、一般就労として4名の移行ができており、なかには福祉支援を受ける側から支援をする側として介護施設で勤務したり、自社の支援員になっている方もいらっしゃいます。
雇用をつくり続けるためにも経営者として利益を増やすことは考えなければならない命題ですが、そのためにもこのように福祉の輪をいかにしてつくっていけるか、障がい者の可能性を示していける場をつくるかが、今後自社としての課題なのではないかと思っています。
福祉としてあらゆるサポートができる会社になりたい
山木:最後に、今後どのような事業展開を考えられているか、GLUGとしてどのようなサポートを期待しているか教えてください。
松下さま:まずは現状の事業の安定が最優先ではあります。
障がい者の数はずっと伸びているなかでA型事業所は少なく、私たちの地域でもまだまだ足りていません。
就労継続支援A型の需要は伸びているなかで、私たちの事業所をもっと知ってもらうことや、より適切な支援をできる体制づくりにはもっと力を入れていきたいと思っています。
そのなかで、支援の質という点を考えてみたとき、やはり一般就労に移行できた利用者さまの人数をいかに増やしていけるかというのがポイントになると考えています。
就労継続支援A型をやり始めてから、ご家族からの感謝の声をいただく機会も増えています。
利用者さまのご両親からいただく「自分が先に亡くなってしまったらどうしようか」「まだローンも終わっていないのに」という心配の言葉が、「松下さんのおかげで働けるようになった」「あの子はもう大丈夫だ」という声に変わるのも多く経験しました。
福祉としても、そして経営者としても、こういった声を一人でも増やしていくのが自分の使命だと思っています。
そのためにも、GLUGには一般就労により多くの利用者さまを導けるサポートをしていただきたいですし、いま思えば、一年目のキャッシュが減っていって焦っていたタイミングでの金銭面のサポートがあればありがたかったなと思いますね(笑)。
今後は福祉事業という軸での拡大を考えています。
具体的には障がい者グループホームや就労継続支援B型、放課後等デイサービスへの進出です。
私たちが支援している領域はまだまだ狭く、自社では雇用ができない障害特性の方であったり、年齢がサポートの対象でなかったりします。
私たちの支援を求めてくるすべての人に、満足いただけるサポートを提供できる会社になりたいと思っています。
ゆくゆくはこの地域に住むすべての障がい者に、一人ひとりの可能性を輝かせられる会社になりたいなと考えています。
山木:本日はありがとうございました。弊社としてもサポートの領域をより広げてまいります。
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