合同会社GEN

2024年10月28日

合同会社gen

長野県北佐久郡御代田町にて就労継続支援A型事業所『GENKI』を経営されている白田元基さま。

かつては日本全国の居酒屋から優秀店舗を決める大会「居酒屋甲子園」にて決勝まで登りつめた居酒屋の業態「自来屋」をメインに経営されていましたが、2016年には『やどかり弁当』を利用しデリバリー事業への拡大を、2022年には『はぐくみ弁当』への取り組みにより障害福祉事業への軸の転換をおこないました。

現在は障害をお持ちの方の雇用を27名創出し、すでに就労継続支援B型や障がい者グループホームなど福祉事業での展開を準備されている白田さまですが、「地元では知らない人はいない」といわれるほどの居酒屋を経営されていたところから、なぜ福祉に取り組もうと思われたのか。

白田さまのいまに至るまでの変遷と今後の経営におけるビジョンについて、GLUGコラム編集部の山木がお聞きしました。

課題

  • 深刻な人手不足により事業展開ができなかった
  • 事業の利益率を上げる必要があった
  • 自身の体力に依存する経営体制だった

実行

  • デリバリー事業『やどかり弁当』に取り組み
  • 福祉のコンサルティングも受け就労継続支援A型を開始
  • 事業がうまくまわる仕組みづくりに注力

結果

  • 24年度には約1億2,000万円の売上見込み
  • 深夜・早朝の労働がなくなり体調面も回復
  • 地域の福祉に対するイメージを変えていく

成功しているはず、だというのに苦しくなっていった

山木:まずはじめに、白田さまのご経歴と、『やどかり弁当』ならびに『はぐくみ弁当』にお取り組みされた背景を教えてください。最初から飲食業で働いていらっしゃったのですか?

白田さま:いえ、元々はまったく異なる業界で働いておりまして、地元のゼネコンの現場監督をしていました。

独立したいという気持ちは持っていましたが、そこから様々な縁とタイミングに恵まれたこともあり、30歳頃に居酒屋「自来屋」をオープンしました。

居酒屋自体はおかげさまで非常に好調に成長し、36歳の頃には居酒屋甲子園で決勝まで残る店舗にすることができました。月商も一店舗あたりで600万円ほどと、当時の一般的な居酒屋業態では成功している部類だったのではないかと思います。

ただし、そこで壁にぶつかりました。地域特性による、従業員の人手不足です。

御代田町は有名な観光地である軽井沢町のすぐ隣に存在します。軽井沢町には大型ショッピングモールなどもあり、観光客向けの仕事の求人が多数あり、それにより時給も地方では考えられないほど高騰していたのです。

店舗は3店舗ありましたが、そのどれもがうまくいっているはずなのに、人手が足りずに店舗拡大はできず次の一手が打てない……と考えていたところ、デリバリーであればどうかと考えました。デリバリーであれば店舗のアイドリングタイムやスペースを活かして作成できるうえ、通常は募集できない午前中だけ働きたい方などに配達してもらうことができる。

というのも、じつは居酒屋甲子園で出会い、仲良くさせていただいていた高崎の『かえん』さんという店舗の方がすでに『やどかり弁当』に取り組んでおり、その話を聞いていたことから、実際の店舗の見学もさせていただきました。

これは現状打破の一手になり得ると感じました。すぐにGLUGの営業の方にお声がけし、デリバリー事業を開始。想定通り、一年も経たずに月200万以上の売上を上乗せすることができ、こちらも事業の立ち上げとしては成功といえると思います。

ただし、この時から少しずつ人手不足の問題は悪化し、居酒屋の事業は縮小を余儀なくされるほどになっていきました。幸いデリバリー事業の人手は問題なく、販売食数がまだ伸ばせることは分かっていたため、利益率を上げる方法はないかと模索していたところ、GLUGの営業の方から「デリバリーと福祉を組み合わせた店舗を見学しませんか? 利益率と人手不足、両方解決できるかもしれません」と提案されました。

かつて自分も障害をお持ちの方を雇用した経験もあり、その時は飲食業のバックオフィス業務をお願いしていましたが、飲食業では業務量を増やせずにいることが課題でした。デリバリーと組み合わせることでその課題も解決するならぜひ、と富山の店舗を見学したのですが、まず20名以上の方が働かれていることに驚きました。

毎日の企業向けデリバリーでは最小の人員をいかに効率的に動かすかが利益率に直接つながるなか、20名以上働いていて利益が残る訳がない。その困惑を察したように発された「ここにいる方のほとんどは障害をお持ちの方なんですよ」の一言は、私をさらに驚かせました。作業もスムーズで、誰が障害をお持ちかもわかりませんでした。

その後、「障がい者を雇用し、雇用機会と訓練の提供をおこなうことで国から報酬を受け取る」という就労継続支援A型事業のビジネスモデルを聞いて、まさにいまの課題を解決できると思いました。

すぐにやりたいと動きましたが、銀行との資金調達の面で難航しました。そんななか、世間はコロナに突入。そのころにはデリバリーの一日の販売食数は450食を超え、私自身は深夜の0時や1時から働いており、体力的にもギリギリの状況でした。さらに腎臓がんを患ったとき、ようやく銀行から「自身の体力によって続くかどうかの働き方を脱しましょう。デリバリーと福祉を絡めましょう」といってもらうことができ、資金調達が進められ、『はぐくみ弁当』への取り組みが叶いました。

ようやく進んだ就労継続支援A型事業所の名前は、自身の名前と、利用者さま(施設を利用する障がい者)の元気や活気につながるような事業所にしたいという想いから『GENKI』と名付けました。ただ働くだけの場所ではなく、明るく働くなかでスキルや経験を積んで一般就労につなげられるような、そんなサポートがずっと続けられる事業所にしたいですね。

やるべきことはシンプル。あとはどのように仕組み化をするか

山木:これまで障がい者を雇用したことがあるとのことでしたが、とはいえ福祉事業への取り組みは初というところで、どのようなところが大変でしたか? どのようなところが気を付けるべきポイントでしょうか?

白田さま:これは事前のご説明でわかっていたことではありますが、一番はやはり1年目のキャッシュフローですね。福祉という業態柄、給与と国からの報酬のタイムラグでどうしてもキャッシュは赤字になってしまう。その際に慌てないことと、そのためにしっかり準備し動くことが大事だと思います。

例えば開業のためのサービス管理責任者と、働いてもらう利用者さまの採用。私の場合はサービス管理責任者の採用が決まらず、物件の認可がズレ込んだためにキャッシュが余分にかかってしまったのが痛手でした。またそれにより2月からの開業、4月からの利用者さまの採用となりましたが、当初は利用者さまの採用もうまくいかず、10人面接に来ても4人しか決まらず、次の採用ができたのは7月になってからでした。

とはいえ、就労継続支援A型事業でやるべきことはシンプルです。利用者さまの人数を増やすことと、利用者さまの給与を払える売上・利益を確保すること。あとはそのための要素を分解して改善を重ねれば良い。

弊社の場合、利用者さまの採用については1年もしたらうまくまわり始めました。やったことは大きく3つで、事業所の周知、業務の分解と改善、そして利用者さま一人ひとりとの向き合いです。

1つめの事業所の周知は基本と思われるかもしれませんが、思った以上に就労継続支援A型事業所というのは知られていません。そのような事業があることは知っていても、自分の住んでいる地域にあるとは思われていない。やり始めてわかったことですが、弊社のデリバリー担当地域では約20万人の人口があるのに対し、就労継続支援A型事業所は2箇所しかありませんでした。

それによるところもあるのか、近年は精神的な疾患をお持ちの方が増加しているのに関わらず、受給者証を持って福祉サービスを受けている人が少ないとも感じています。実際、これまで面接してきた50名ほどのうち、35名ほどには相談支援員がついていない実態がありました。お話した方だけでそうなので、潜在的にはもっと多くの方がいるでしょうし、働く場所や生活の支援に困っているのだろうと思います。

だからこそ、求人広告を出すだけで「こんな施設があったんだ」と驚かれることも多いんです。就労継続支援A型事業所がないという先入観を持たれている状況を変えるため、HPやSNSで情報を発信したり、ハローワークや各福祉機関と連携するという当たり前のことが重要になります。

2つめの業務の分解と改善は、要するに利用者さまが働ける作業をいかにつくり、障害特性に応じた仕事を用意したり、一人ひとりが活躍できる環境をつくることです。例えば弊社では、千葉県香取市の就労継続支援A型事業所「うおへい」さんからアドバイスを受け、弁当の盛り付けにベルトコンベアを導入しました。これにより、作業速度が上げられない利用者さまでも十分戦力になってくれる環境をつくることができました。

これは思ったよりも多くのメリットを生み出してくれるポイントで、自分たちの業務を1から見直し、棚卸しをすることで、これまで「何となく」回っていた業務がマニュアル化され効率化することにもつながっています。これによって私も深夜から働いたり現場に入ることがなくなり、体力面での問題もすっかり改善しました。

また、他社から業務を請け負う際も、このポイントが身についていれば利用者さまごとに合う仕事を創出しやすくなります。利用者さまの採用・定着のためにやるべきことですが、それが結果的に売上にもつながってくれます。

3つめの利用者さま一人ひとりとの向き合いについては、より多くの利用者さまに長く働いてもらえるかのコミュニケーションの点です。寄り添い過ぎてしまっては依存関係となり得てしまい自立から遠ざかってしまうという難しいところですが、福祉事業所としての根幹になる重要なポイントです。

弊社ではここを可能な限り仕組みで改善をしようとしています。例えば、利用者さまからの相談については「相談シート」というものを作成し、複数の支援員で活用しています。これにより一人の支援員にかかる負担を削減しつつ、事業所全体でそれぞれの利用者さまの抱える課題を共有しサポートできる体制をつくることができます。

20名以上の利用者さまがいるとどうしても課題は出てくるため、だからこそ仕組み化することが重要です。事業所全体としてそれらの課題を共有できていると、定期的なミーティングで速やかに問題解決の手段が挙がるなど、支援方針を柔軟かつスピーディーに改善できるようになります。

また、弊社では一人ひとりの誕生日を祝ったり、BBQなど定期的なイベントを開催したりするなど、「働く」ということだけに焦点を絞らず、組織の一員として社会的な交流も意識しています。楽しい職場として定着してもらうことももちろん目的の一つですが、一般就労するうえではコミュニケーション能力を培うことも重要です。イベントを通じて結果的に人として成長できれば、利用者さまも一般就労できますし、一般就労してもらえれば弊社としても国の報酬が増える。これも一石二鳥といえます。

ここまで利用者さまの採用・定着についてお話しましたが、とはいえ、利用者さまの給与を払える売上・利益を確保することが大前提です。売上が給与を割ってしまっては国からの報酬額が減ってしまうため、弊社ではデリバリーで1日約450食を販売していますが、ここを絶対に落とさないことを決めています。また軽作業やデータ入力、内職、清掃など、周辺企業からの受託業務がないかは常にアンテナを立てています。

そういう意味では、GLUGにはデリバリーの売上増加についてはお世話になっていますが、今後はデリバリー以外の売上につながる仕事をご紹介いただけたら嬉しいですね。多くの会社をサポートしているからこそ全国のクライアントの仕事を把握していると思うので、それをパッケージにして展開していただけたらと。

これまでも成功されている会社の経営者と話す機会をもらえたり、様々な成功事例を聞くなかでアイデアや勇気、安心感をもらってきたので、この領域でも情報をもらえる場所を増やしていただけることを楽しみにしています。

地域の「福祉」の在り方を自分が変えていきたい

山木:最後に、今後の事業展開をどのようにお考えか教えてください。

白田さま:いまの就労継続支援A型を軸に、福祉の分野で事業の幅を広げていきたいですね。直近では10月に就労継続支援B型事業所を開業したので、来年度にはグループ合計約2億円の収益となる見込みです。また、来年度中には障がい者グループホームについても開業できるよう準備を進めています。

利用者さまの採用を進めるために事業所の周知をしているなかで、やはり現在の弊社の業務内容に対応するには難しい障害をお持ちの方も面接に来られます。また、利用者さまのご両親から「自分が先に亡くなったあとの子が心配」という声を寄せられることも少なくありません。

私は就労継続支援A型を経営するなかで、自身の体力や経営課題の面で救われてきましたし、利用者さまやそのご家族、地域の方々から多くの感謝もいただいてきました。経営をしていて非常にやりがいを感じています。

だからこそ、いまの就労継続支援A型だけでは雇用できない方も働けるよう就労継続支援B型も展開しましたし、皆様の生活を支えられるよう障がい者グループホームも運営したい。より多くの障害をお持ちの方に支援ができる会社として成長し、様々な面から「自立」を支援できるようになりたいなと。

その次の構想も持っており、利用者の一般就労先として水耕栽培の会社をつくりたいと思っています。お伝えした通り、この地域には就労継続支援A型事業所が少ないため、障害をお持ちの方が一般就労するという考え自体が浸透しておらず、「障がい者」に対して地域が持つイメージも非常に古いものがあります。障害を持っていたとしても、普通以上に働ける、一般人にはない能力を持っている方はたくさんいるということを弊社から伝えていきたいと思っています。

そのために自社の水耕栽培の会社で一般就労者を多く雇用し、その事実を周知していきたいですね。地域の会社がそれを知り、福祉や障がい者についての考え方がアップデートされれば、自社だけでなく他の会社への一般就労も増やすことができると考えています。

また地域の福祉を推進するためにも、行政との連携も進めています。国は農業に不利な山あいの土地での農業事業者を支援するために補助金を出していますが、事業者の高齢化や担い手の減少により耕作が放棄されてしまう土地が増えています。

長野県もその課題を抱えているということもあり、弊社では農副連携として何かができないかと、行政の担当者さんと進めています。一般的な農副連携では農作業を障害をお持ちの方にやってもらうことが多いかと思いますが、それだけでなく、いまは藁を使った手工芸品などでもタイアップしようとお話しています。

利用者さまの生産活動の幅を広げることもできますし、地域の課題も解決できます。なにより、これらの活動で少しずつでも福祉の考え方を拡げていけます。

飲食の事業も福祉の事業も、成功してこれたのは地域の皆様のおかげだと思っています。だからこそ、私は福祉というかたちで地域に恩返しをしていきたいですね。

山木:本日はありがとうございました。弊社も、就労継続支援A型・B型、障がい者グループホームの3事業の成功に向けて伴走してまいります。

<白田さまの事業所>

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