株式会社スネイル

2025年11月18日

株式会社スネイル

兵庫県川西市で株式会社スネイルとして就労継続支援A型事業所『クチーナマンマ』を経営されている大西さま。

もともとは旅行会社『兵庫トラベル』を20年前に立ち上げ、現在は複数の事業を運営する『エスカルゴグループ』を率いています。旅行業だけでなく、保育事業や放課後等デイサービスといった地域密着型の事業を展開し、地域に根ざした経営を続けてきました。

そんな大西さまが2021年に就労継続支援A型事業『はぐくみ弁当』に参入し、わずか1年後の2022年には障がい者グループホーム『はぐくみ住まい』にも着手。福祉事業において急速な成長を遂げるなか、その背景にはどのような経営判断があったのでしょうか。

経営者としてのこれまでの軌跡と、これから描く未来について、GLUGコラム編集部の山木がお聞きしました。

課題

  • 障がい者の働く場所を求められていた
  • 福祉事業の開業・運営ノウハウがなかった
  • 既存事業と相乗効果のある事業を展開したかった

実行

  • 就労継続支援A型事業『はぐくみ弁当』に取り組み
  • 経営と現場の目線合わせを徹底
  • 障がい者グループホーム事業『はぐくみ住まい』に取り組み

結果

  • 速やかな収益化を実現
  • グループ全体での相乗効果を創出
  • 福祉事業の更なる展開を進める

関連事業を拡げていく経営方針のなか、就労継続支援A型が挙がった

山木:大西さまはエスカルゴグループとして様々な事業を展開されていますが、そのなかでなぜ就労継続支援A型事業を始めようと思われたのか、これまでの経営者としての生い立ちからお聞きしても良いでしょうか?

大西さま:私のキャリアは実家の商売から始まりましたが、経営を引き継いだものの思うようにいかず、店を畳んだ後はサラリーマン生活を送っていました。商工会議所で8年半、経営指導員として中小企業のサポートに従事し、その後、商工会議所の会員でもあった旅行会社に転職。約2年間勤めた後、39歳で独立して「兵庫トラベル」を立ち上げました。

独立後は旅行だけでなく、それに付随する事業も展開し、エスカルゴグループとして事業を広げてきました。ツアーを開始する際にはバス事業を立ち上げ、ウォーキングツアーが流行っていた時期には昼食用に弁当事業を始めました。その際、弁当事業には女性従業員の力が欠かせず、彼女たちが子供を預けて安心して働けるように「ちびっこランド」「かたつむりランド」「モーモーランド」といった保育所も開設しました。

保育所事業を進めるなかで、発達が緩やかな子供たちの存在に気づき、5年前には放課後等デイサービス「かたつむりハウス」を立ち上げました。現在2拠点で50名の定員は常にいっぱい。障がいを持つお子さまの親御さんが抱える不安と、福祉サービスへの需要の大きさを痛感しました。

そんななか、放課後等デイサービスの利用者(施設を利用する障がい児・障がい者)さまの親御さんから「卒業後、子供はどうすれば良いだろうか」と相談を受ける機会が増えました。そこで耳にしたのが就労継続支援A型事業の存在。障がいを持つ方に働く機会と訓練を提供し、国から補助金を受け取るビジネスモデルと知り、会社としてさらなる成長を図るうえで大きな可能性を感じました。

しかし、どうやって参入すればよいか分からず悩んでいたとき、GLUGから「福祉事業を始めませんか?」というFaxDMが届いたんです。最初は何の話かと思いましたが、内容をよく読むと、就労継続支援A型と弁当事業を組み合わせた「はぐくみ弁当」の案内でした。

就労継続支援A型では、雇用する障がい者の給料を売上から支払う必要があります。しかし、その売上を需要が拡大し続けているデリバリー事業で生み出すというビジネスモデルを聞き、なるほどと思いました。「これは自社の弁当事業とも相性が良いし、やる価値がある」と感じたんです。

とはいえ、福祉事業は未経験。全員が未経験の状態で本当に運営できるのか、不安はありました。そこでGLUGの営業さんからの提案で、すでに成功している京都の「エムズ」という事業所を見学することにしました。

実際に現地を訪れてみると、驚きの連続でした。30名近くの利用者さまが何百個ものお弁当をスムーズに作成していて、誰が障がい者か見分けがつかないくらい生き生きと働いていたんです。その姿を見て、「自分もこんな事業所をつくりたい」と強く思いました。

さらに、自社の放課後等デイサービスの卒業生が安心して働ける場をつくれることや、弁当事業など他の事業との相乗効果も見込めることから、「やるしかない」と決断しました。そこで2021年に就労継続支援A型事業所「クチーナマンマ」を設立しましたが、始めてみると改めてその事業の安定性や成長性を実感。すると、利用者さまや親御さんから「生活面のサポートもしてほしい」という声が増えてきました。

そこで翌2022年には、障がい者グループホーム事業「はぐくみ住まい」にも取り組むことを決断しました。事業拡大のスピードは我ながら早いと思いますが、これはGLUGの支援があってこそです。

GLUGは単にビジネスモデルやサービスを提供するだけでなく、社員一人ひとりが「クライアントを成功させたい」という強い熱意を持っています。現場にまで入り込んでサポートしてくれる姿勢には感謝しかありません。1+1が5にも10にもなるような印象で、そのおかげで売上や利用者集客のスピード感も生まれ、成功につながっていると実感しています。

福祉事業だからこそ、社員とミッション・ビジョンをすり合わせる必要があった

山木:放課後等デイサービスも福祉の側面はありますが、就労継続支援A型や障がい者グループホームとはまた違った大変さがあったかと思います。そこはいかがでしたか?

大西さま:福祉事業を始めてから、一年半は収益の面で赤字が続きました。就労継続支援A型は給与の支払いと国からの給付金の受け取りの間に2ヵ月のタイムラグがあるうえ、設備投資も重なり、キャッシュフローはかなり厳しかったです。

ただ、事前の見学で話を聞いていましたし、やるべきことは明確。事業計画書を作成する段階で成功のビジョンは見えていたので、辛抱する覚悟はできていました。このビジネスモデルが自社の経営のみならず、利用者さま、地域、社員すべてのためになると確信していたからです。

収益面以外では、教育やコミュニケーションの構築も大きな課題でした。民間企業の競争の世界にいた私にとって、福祉の領域はビジネスにおけるスピード感がまるで異なり、それは社外でも社内でも同じでした。

働いてくれるスタッフが求めるスピードに慣れ、ビジネスの熱量を共有できるようになるまでには、スピリッツやマインドセットを浸透させる時間が必要でした。たとえば、利用者さまの採用においても、福祉経験者は「お弁当の盛り付けができないなら働くのは難しい」と早々に結論を出してしまうことがありました。そのギャップを埋めるのが大変でした。

私は、利用者さまの障害特性や性格、得意なことを丁寧にヒアリングし、現状だけで判断せず「どんなことならできるのか」を深掘りし、そのための業務をつくるという視点を持つよう伝えました。たとえば、細かい作業が得意な方にはパッキング業務を、手先が器用な方には食材のカットを担当してもらうなど、適材適所で役割を決めることで、働く意欲を引き出す工夫をしました。

また、「会社がこの領域に参入した意味」「何を実現したいのか、どんな未来を描いているのか」といった事業の意義を、月に一度は全社員に共有し、意見を聞く場を設けています。そこから初めて、主体的な目標が生まれ、グループで取り組めるKPIを設定できるようになりました。そして、目標を達成したら全力で称賛する文化を築くよう努めています。

たとえば、「利用者さまにこう成長してほしい」というビジョンがあれば、そこから逆算して目標設定や期待する成果が生まれます。そのような意見が出るよう、業務中のコミュニケーションはもちろん、食事会など社外での交流の場も積極的に設け、スタッフ同士の連携を強化してきました。その結果、現在の職場には活気が満ちています。

2022年からは障がい者グループホーム「ハウス クチーナマンマ」も開設しましたが、就労継続支援A型も障がい者グループホームも、経営層と現場の意思共有が成功の鍵だと実感しています。

事業を軌道に乗せるには「何件営業に行く」「お弁当を綺麗に盛り付ける」といった具体的な目標も必要ですが、根本は経営と現場が二人三脚で全力で走れるかどうかにかかっています。この連携があれば、細かい課題は自然と解決され、事業全体の質も向上していくと確信しています。

福祉事業を始めて、最も感じたのは「想像以上の可能性」

山木:就労継続支援A型事業、そして障がい者グループホーム事業を始めて、会社としてはどのような影響がありましたか?

大西さま:クチーナマンマを立ち上げた当初は、正直不安もありました。特に、これまでお弁当の製造に携わったことのない利用者さまが、1日200食以上の注文に対応できるのか、しっかりと仕事を覚えてくれるのか、という点は未知数でした。しかし、実際には彼らの成長速度は私の想像を超えていました。最初は簡単な作業から始めたものの、日に日に仕事を覚え、精度を上げ、最終的にはスムーズに業務をこなせるようになりました。その姿を見て、「できることはもっとあるはずだ」と考えるようになりました。

利用者さまと関わるなかで、彼らの意欲や挑戦する力の強さを肌で感じました。「障がいがあるから難しい」と決めつけてしまいがちな社会の考えが、どれほどもったいないことなのか、実感しました。こうした意識の変化は、会社全体にも波及しているように感じています。従業員一人ひとりが、利用者さまの頑張る姿を見て刺激を受け、以前よりも意欲的に仕事に取り組んでくれるようになっているんです。「仕事を教える」ではなく、「一緒に仕事をつくる」という意識が根付いた結果だと思います。

また、エスカルゴグループとしては既に安定した経営基盤がありましたが、福祉事業を始めたことで、新しい可能性がどんどん広がっています。たとえば、放課後等デイサービスを利用していた子どもたちが、就労継続支援A型に進んで実際に働くようになったケースもありますし、就労継続支援A型を卒業した多くの利用者さまが各事業で一般就労者として活躍してくれています。こうした流れが生まれることで、企業としての役割が「支援する側」から「次のステージを提供できる場」へと広がっていることを実感しています。

さらに、就労継続支援A型と障がい者グループホームの相乗効果も非常に大きかったです。就労継続支援A型の利用者さまは、生活の安定が働く安定につながります。そこで、はぐくみ住まいとして障がい者グループホーム事業を立ち上げたところ、勤務率が目に見えて向上しました。実際に、120日休まずに勤務した利用者さまを表彰する制度を設けたところ、およそ半数が対象となるほどの定着率を実現できました。

現在、スネイルでは就労継続支援A型で70名、障がい者グループホームで9棟・34名の利用者さまを支援し、それぞれ安定した経営状態をつくれていますが、特に障がい者グループホームは、立ち上げから1年以内で収支を黒字化することができました。その成功の背景には、就労継続支援A型事業所「クチーナマンマ」の名前が広がっていたことが大きいと感じています。全国の傾向と同様、川西市では就労継続支援A型事業所が圧倒的に不足しており、安定した雇用を提供し、一般就労へとつなげているスネイルの存在は、相談支援機関からも高く評価され、日々多くの相談をいただくようになりました。

こうした結果を出せたのは、GLUGのSVの営業力・指導力の支えがあったからこそです。福祉事業の運営は、単に施設をつくれば成功するものではなく、適切な運営ノウハウや支援の質が求められます。その点でGLUGと組んだことで、事業の成功までのスピード感は格段に上がりました。

さらに、お弁当事業で余剰が出た食材を障がい者グループホームの食事に回すことで、食品ロスを減らしながら、食事加算を受けることができています。もともと廃棄になっていた食材が、利用者さまの食事として提供され、経営面でもプラスに働くようになりました。利用者さまからも「毎日の食事が楽しみ」という声をいただくことが増え、事業としても、社会貢献としても、大きな意義を感じています。

また、障がい者グループホームのFCは他にも多くありますが、はぐくみ住まいを選んで本当に良かったと感じています。実際、同時期に他のFCで障がい者グループホームを始めた知り合いの経営者のところでは、2棟目の入居がまだ埋まっていないという話を聞いていますが、一方弊社ではすでに9棟運営し、安定した稼働率を維持しています。この差は、単なる運営ノウハウの違いではなく、GLUGの支援があったからこそだと思います。

こうした経験を通じて、私は福祉事業の持つ可能性の大きさを改めて実感しました。はぐくみ弁当Plus、はぐくみ住まいを通じて福祉事業に参入し、単なる支援ではなく「次のステージ」を提供できる会社になっていることが、何よりの成果だと思っています。

福祉事業に取り組むことによりもたらされるメリットは想像以上でした。エスカルゴグループとしての経営にとっても、従業員や利用者さまにとっても、そして地域にとっても。この事業に挑戦して本当に良かったと感じますね。

挑戦の場を広げ、誰もが成長できる環境をつくる

山木:大西さまの今後の事業展開として、このようにしていきたいなどの方針はどのようなものがございますか?

大西さま:福祉事業に取り組んで数年が経ち、事業としての安定は見えてきました。でも、理想の環境というには、まだまだやれることはあると感じていますね。そのうちの一つは一般就労者の輩出環境の構築です。

これまで多くの利用者さまが就労継続支援A型を経て成長し、自立の道を歩んでくれました。今までで19名が一般就労に進み、その中には自社で支援員として活躍してくれている方もいます。実際、利用者さまから支援員になった方が作成する記録書類はとても丁寧で、責任感も強い。ときには一般の従業員以上にしっかりやってくれているなと感じることもあります。こうした成功事例が増えれば、他の利用者さまのモチベーションにもつながるはずですし、これからもっと増やしていきたいと思いますね。

一般就労の道をもっと広げるために、まずは職場の中での利用者さま同士のコミュニケーションもより良くしていきたいです。支援員との信頼関係はできていて、不安に対するケアもしっかりできているので、離職者は少ないんです。しかし、利用者さま同士がもっと積極的に関わりを持てるようになれば、支援に頼らずとも自らの力で解決できる場面が増え、より自立に近づけるのではないかと思っています。

また、一般就労に向けた準備として、日々の業務のなかでビジネスマナーや清潔感を持つことの重要性も、もっと伝えていきたいですね。たとえば「元気よく挨拶をしよう」ということは徹底していて、それができるだけでも社会に出たときの第一印象が大きく変わります。さらに、社内研修を通じて「職場での立ち振る舞い」や「身だしなみ」といった基本的なビジネスマナーのトレーニング実施し、どこに行っても堂々と働ける自信を持てる環境をつくっていきたいです。

より良い環境をつくるには、これまで以上にリーダーや役員がアイデアや熱量を持ち、現場の声をもっと拾っていくことが必要となります。120日休まず勤務した利用者さまを表彰する制度や皆勤手当の導入も、現場の意見から生まれたものです。こういう仕組みを増やしていくことで、利用者さまの働く意欲をもっと引き出していけると思います。

実際、「やりたい仕事がある」「こんな夢を叶えたい」という声は、利用者さまの間でもどんどん増えてきました。そこで、2025年の春には、利用者さまの挑戦を形にする「チャレンジショップ」をオープンする予定です。ここでは「障がい者が運営するお店」ではなく、「一般の店舗として成功するお店」を目指します。利用者さまのアイデアや得意なことを活かし、社会の中でしっかりと価値を生み出せる場をつくっていきたいですね。この発想が生まれたのも、GLUGと組んだことで「福祉=支援する場」ではなく、「福祉=社会の中で価値を生み出せるもの」という意識が我々のなかに根付いたからこそです。

今後も、福祉事業の拡大と発展をどんどん進めていきたいと考えています。特に、障がい者グループホームはまだまだ需要が高いため、現在の9棟から、最終的には34棟まで増やしていく計画です。さらに、訪問看護の開業手続きも進めています。現在の利用者さま104名のうち、看護師がついているのは10名ほど。訪問看護の体制が整えば、より多くの利用者さまに手厚い支援を提供できる。また、重度の障がいを持つ方にも働く機会を提供できるようにするため、2025年春には、そうした方々の受け皿となる就労継続支援B型事業所の開業も考えています。

「夢への実現とトライ」に向けて、経営幹部や社員だけでなく、利用者さまも含め、みんなで一丸となって成長していきたいですね。支援をして終わるのではなく、「自分たちの力で未来を切り拓いていける」そんな場所にしていくのが、私の使命だと感じています。

山木:エスカルゴグループ、そしてみなさまの更なる飛躍に我々も期待しています。本日はありがとうございました。

<大西さまの事業所>

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