合同会社All lead 44

2024年11月20日

合同会社All lead 44

千葉県柏市で就労継続支援A型事業所『All lead 44』を経営されている平岡卓也さま。

かつては広告代理業でフリーランスとして活躍されていた平岡さまは福祉事業に取り組むことを決め、2022年に障害福祉コンサルティングサービス『はぐくみ弁当』を利用しての大きな事業転換を決めました。

2024年11月現在、2年目にして29名の障害をお持ちの方を雇用し、既に6名の一般就労移行者を排出されている平岡さまは、なぜ福祉の道を進もうと考えられ、どのような視点で経営されているのか。

平岡さまのこれまでとこれからの経営ビジョンについて、GLUGコラム編集部の山木がお聞きしました。

課題

  • 安定性の高い事業を経営したかった
  • 福祉への恩返しがしたかった
  • 福祉の経営ノウハウがなかった

実行

  • 福祉×デリバリー事業『はぐくみ弁当』に取り組み
  • GLUGのサポートのもとオペレーションを構築
  • 業務の幅を広げるよう活動

結果

  • 月100万円以上の利益を安定して創出
  • 29名の安定勤務、6名の一般就労者輩出
  • 福祉領域での経営拡大を進める

安定した経営ができるうえ、誰かのためになるという点が魅力的だった

山木:平岡さまはもともと、福祉とはまったく関係ない事業をされていたとお聞きしています。どのような経緯があって福祉にお取り組みしようとお考えになられたのか、教えていただけますか?

平岡さま:一言で言えば、福祉というビジネスモデルに安定を感じたという点と、私の周辺に障害や病気で苦労している方がいたからですね。

私は新卒で入社した会社では美容系のフランチャイズでSVのような業務に従事していたのですが、その後美容系ポータルサイトの営業・広告代理業での経験を経た後に、当時シンガポールで仕事をしていた友人から声がかかり、日本とシンガポールを行き来しながらのWebマーケティングの領域での仕事をするようになりました。

当時は様々なSNSの成長が著しいタイミングであったこともあり、Webサイトの運営や広告の市場もどんどん大きくなりました。自身の経験やスキルも飛躍的に向上し、そのタイミングで独立を決めたのですが、やはり上手くいくことばかりではありませんでした。

広告やWebサイト・SNSの運用をおこなうにあたり、検索エンジンや広告媒体の動向には常にアンテナを立てる必要がありますが、機械学習やアルゴリズムの進化は目まぐるしく、また市場が大きくなっているなかで競合も増加。当時、売上はありましたが、安定しているとはいえず、心身ともに摩耗していくのを感じました。

そのタイミングで大きな転機が2つ訪れました。まず、現在共同代表をしている総合リユース事業『トップリユース』を経営していた加森という友人から「一緒に働かないか」と声がかかったのです。また、「やりたい新規事業があればぜひ提案してくれ」とも。フリーランスという働き方に疲弊していた私にとって魅力的な提案でした。またそのタイミングで、SNSの運用代行をサポートしていた取引先が『はぐくみ弁当』への取り組みを検討しており、そこから話を聞くことで福祉事業のビジネスモデルを知るに至りました。

障害をお持ちの方に働く機会とスキル獲得のための支援を実施し、その対価として国から報酬を受け取る。非常に安定性の高いビジネスモデルだと思いましたし、どうしても人手が必要になる『トップリユース』の事業との親和性もある。何より人のため、社会のためになる仕事だと感じました。

私の母親は統合失調症を患っており、精神的に大変な時期もあったのですが、外で働いてみるという経験をした際、非常に元気になって帰ってきたんですね。とても嬉しかったですし、当時の勤務先にはいまでも感謝しています。そのような「ありがとう」という言葉をもらえるのは福祉特有の素敵なことだと思いますし、妻のご家族にも障害をお持ちの方がいたこともあり、自身が福祉事業をおこなうことで受けた恩を返していけたらと、福祉での事業展開を検討し始めました。

とはいえ、当然ながら福祉は未経験。自分で調べてもみましたが、制度は複雑で、自力で開業するのはリスクと感じました。そこで、フランチャイズの本部側で働いていた経験から、フランチャイズやコンサルティングのサポートを受けて開業した方が安心だろうと、GLUGの営業の方にお声がけをしました。

他の会社のサービスも検討しましたが、就労継続支援B型の支援をする会社は数多くあれど、就労継続支援A型のサポートをする会社はなかなかありませんでした。利用者(福祉施設を利用する障がい者)さまにはしっかり給与をお支払いしたかったですし、柏市にB型は32箇所あるのに対しA型は10箇所しかなく、需要があるということもあり、GLUGの『はぐくみ弁当』への取り組みを決めました。

覚悟はしていたが過酷。サポートがなければ耐えられなかった

山木:『はぐくみ弁当』は福祉×お弁当デリバリーの業態ですが、平岡さまは福祉も飲食も未経験でした。非常に大変だったのではないかと思いますが、どのようなポイントが大変でしたか?

平岡さま:福祉もデリバリーもそれぞれ大変なことはありましたが、何よりお弁当デリバリー事業の構築が大変だったかもしれません。特に最初の一週間は飲食業を経験していなかったからこそ乗り越えられた側面があるかもしれないとすら感じています。

販売初週から事前に聞いていた以上の400食以上の注文があったことは非常に嬉しかったのですが、そのぶんだけ現場はバタつき、配達に遅れないようにするのに必死でした。弁当の仕込みも朝早く、開始当初は人が不足していたこともあり、SVの方のサポートがなければ乗り切れなかったと思います。いま思えば、弁当を始める前からできる準備をより手厚くできればもう少しスムーズにオープンできたかもしれません。

一方、福祉の側面で大変だった点でいえば1年目のキャッシュが苦しかったです。福祉はそのビジネスモデルから1年目は赤字になるとは聞いていたものの、想定よりも初期投資にかかってしまったこともあり、資金繰りが大変でした。

ただし、当初懸念していた利用者さまが集まるかという点や、福祉事業の立ち上げ・運営については非常に手厚くサポートいただけたため、不安なく進めることができました。申請における物件・書類の支援だけでなく、福祉についての考え方や在り方、利用者さまや国からの報酬の増やし方までレクチャーいただけるため、弊社のサービス管理責任者も就労継続支援A型の経験はありませんでしたが、非常にスムーズに経営を進めることができました。

いまとなっては利用者さまも順調に集まり、29名いらっしゃるので、デリバリー事業の現場も余裕を持ってうまくまわっています。利用者さまはみなさま何かしらの障害を持っていますが、それだけ秀でている能力をお持ちです。得意なことや障害特性に合わせてお仕事をお任せすることができれば、非常にクオリティの高いお仕事が可能なため、デリバリー事業以外の点でもお仕事をお任せしています。

そのおかげもあり、今年の4月からは黒字転換。月100万以上の利益を生むことができています。福祉事業所として、障害をお持ちの方の支援になることをきちんと実行すればそれだけ利益につながるという点では、いまはとてもやりがいを持って仕事ができていますね。

居心地の良さとキャリアの構築、その両立ができる事業所にしていきたい

山木:運用に乗せることができるようになった福祉事業ですが、いまだからこそ気を付けているポイントや課題などはありますか?

平岡さま:利用者さまも集まり、弊社の福祉事業は次のフェーズに入っていると思います。

利用者さまが集まれば利益の面では安定しますが、人が増えれば増えるほど、当然ながら摩擦も起こります。また、利用者さまがどのように働きたいか、支援員がどのように支援をしていきたいかなど、一人ひとり考え方は異なり、だからこそそれに寄り添った組織を構築する必要があります。

就労継続支援A型は福祉事業です。利用者さまが集まれば良いということではなく、スキルや経験を身に付けてもらい、一般就労ができるように導かねばなりません。そのためには優しくするだけでなく、時には厳しく指導することが必要なタイミングもあると思っていますし、それこそが本人のためになると思っています。

ただし、居心地の良い事業所で在り続けるということを諦める気もありません。そのための利用者さま・支援員とのコミュニケーションは欠かさないようにしていますし、利用者さまの状況に合った業務を提供できるよう、仕事の幅を広げるよう意識しています。

いまではトップリユースのインターネット通販業務も利用者さまにお願いしており、利用者さまのお仕事を増やせば増やすほど相乗効果が出る状況をつくれています。

そのおかげもあってか、弊社ではこの2年間で一般就労に6名移行できています。また、利用者さまから「いつまでもここで働いていきたい」という声をいただくことや、利用者さまのお子様から「お母さんをよろしくお願いします」「障がい者グループホームを早く作ってください」と言っていただけることもあり、やりたいことはどんどん増えていますね。

いま見据えていることは3つあります。利用者さまに提供する仕事をつくることと、一般就労に移行する利用者さまを増やす仕組みをつくること。そして福祉事業の拡大です。

利用者さまの仕事をつくることについては、利用者さまの障害特性や構築したいキャリアに応じた業務を提供できる環境をつくりたいと思っています。そのために今年からシェア畑も始めていくのですが、これは1年かけてノウハウを取得し、ゆくゆくは自分たちで畑を持てるようになりたいなと。また、11月からは記帳代行の仕事も始まることが決まりました。事務系のスキルは体力面で心配な方でも身に付けられますし、一般就労にもつながりやすい。「早く一般就労できるようになりたい」という方をよりサポートできる土壌を社内で構築していきます。

さらに、これまで自分が経験してきたような領域、つまりWeb上での広告、マーケティングでも業務をつくっていけたらと思っています。「利用者さまがやれること」を提供するのももちろんですが、「利用者さまがやりたいこと」を仕事にできたらそんなに素晴らしいことはないと思いますし、自分の経験がそこにつながるならこんなに嬉しいことはないですから。

そのためには組織体制や給与形態なども見直さねばなりません。組織として大きくなっていくなかで、経営者として考えることが多くなっていくのは大変ですが嬉しいですね。

2つめの一般就労を増やす仕組みをつくるという点については、業務のうえでの具体的なサポートだけでなく、より広い意味での就職に向けた支援をしていきたいです。それはいまでもやっている生活リズムを整える支援や生活上の悩みを聞くだけでなく、ビジネスマナーやアンガーマネジメント、就職のサポートなど、就労移行支援事業所のプログラムに近いサービスを提供できるようにしたいと考えています。

もちろん個々に支援しても良いですが、しっかり仕組み化して明示することで利用者さまも取り組みやすくなると思いますし、複数人が頑張っている環境が作れれば「自分も頑張ってみよう」という気持ちになる利用者さまも増えていくのではないのかなと。

ここについては今後、GLUGでも支援してもらえたら嬉しいですね。例えば支援員向け・利用者さま向けにそれぞれ学習できる動画コンテンツが溜まっていくプラットフォームのようなものができたらとても助かります。可能であれば経営面や運営面でも役立つような他社さまの成功事例などもあれば、今後の事業展開においても役に立つだろうなと思います。

3つめの福祉事業としての展開は、就労継続支援A型の2拠点めの設立であったり、就労継続支援B型・就労移行支援、障がい者グループホームなどの他の福祉事業への拡大を考えています。

全国の傾向と変わらず、千葉県においても柏市においても障がい者の人数は増加しており、福祉施設は不足しています。とはいえ、一事業所で支援できる人数は決まっているうえ、障害の程度によっては現状の『All lead 44』だけでは支援ができない方もたくさん存在します。せっかく弊社を知って働きたいと応募してきた方を断りたくない。そのためには2ヵ所め・3ヵ所めのA型事業所の開設や、B型事業所への拡大も検討せねばなりません。

そして、障害をお持ちの方の悩みは働くことだけではありません。障がい者グループホームを開業し、職場以外での生活面もサポートしてほしいという声は弊社の利用者さまからもいただきます。生活のサポートもできれば利用者さまもより安定して働くことができますし、そういう意味でいえば福祉事業の領域での多角的な事業展開は相乗効果が大きく、ここでも利用者さまの満足度を上げることで事業の安定につながっていきます。

そのためにも、GLUGにはより一層、福祉事業の拡大とノウハウのパッケージ化、成功事例の横展開を期待しています。柏市の福祉に変革を起こしたいと思っているので、ぜひ今後ともよろしくお願いします。

山木:こちらこそ、ぜひよろしくお願いいたします。ともに福祉の輪を拡げていきましょう。

<平岡さまの事業所>

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