株式会社AtoC

2025年1月17日

株式会社AtoC

大阪府八尾市で就労継続支援A型事業所『Astro』を経営する株式会社AtoCの間賀健之さま。

かつては居酒屋チェーン店のSV(スーパーバイザー)として働かれていた間賀さまは2019年に独立を決意され、障害福祉×デリバリー事業『はぐくみ弁当Plus』へのお取り組みを始めました。

2024年12月現在では毎日700食以上のお弁当を販売し、35名もの障がい者を雇用している間賀さまですが、未経験から福祉を始め、ここまで成長するまでにはどのようなポイントがあったのでしょうか。

間賀さまの経営者としての始まりと今後思い描く未来について、GLUGコラム編集部の岩本がお聞きしました。

課題

  • 深刻な人手不足を解消したかった
  • 多忙で考える時間を持つことができなかった
  • 障がい者も活躍できる職場をつくりたかった

実行

  • 福祉×デリバリー『はぐくみ弁当Plus』で独立開業
  • 販売食数を伸ばすため徹底的に接客スキルを強化
  • 支援体制のベースを平準化

結果

  • 35人もの障がい者が活躍できる職場環境を構築
  • 経営者としてさまざまな展望を持てるようになった
  • 福祉で拡大し、社員やスタッフ、利用者さまに還元していく

障がい者の可能性に賭けたくなった

岩本:間賀さまは福祉のご経験はなかったと思いますが、『はぐくみ弁当Plus』をご検討された背景からお伺いしてもよろしいでしょうか。

間賀さま:当時は居酒屋チェーンのSVとして東京の3店舗を担当していたのですが、とにかく深刻な人手不足に頭を悩まされていました。売上は出せているものの、とにかく人がいない。SVとして店舗運営や経理の改善もしなければならないなか、私が現場に出ざるをえないことも多く、業務がまわらない状況が続いていました。

そんな状況を打開するため、外国人の採用を積極的に進めていましたが、日本語の教育にも時間がかかり、自分の時間を持つには至っていませんでした。何か良い方法はないかと考えていると、担当の店舗で障害をお持ちの方が働いていることに気付きました。

その方は常に周りの目を気にして働いており、他のアルバイトとの関係も少しうまくいっていないようで、その時に「障がい者はもっと戦力になるのではないか」「障がい者でも伸び伸びと働けるような環境はつくれないだろうか」と考えるようになりました。

生命保険の担当者からGLUGを紹介されたのはその頃でした。当初は居酒屋のスキマ時間で企業向けのデリバリーをやらないかという話で、売上もありましたし人手不足という状況だったので受けるつもりはなかったのですが、「ゆくゆくは福祉と組み合わせ、就労継続支援A型という事業を始めませんか」という提案に考えを改めました。

軽度の障害をお持ちの方に働く機会を提供し、働くための訓練を実施することで国から報酬を受け取るというビジネスモデルは、まさに私が思い描いていたものでした。障がい者が活躍できる場をつくりながら、人手不足も解消できる。収支表を見ても非常に魅力的に感じました。

しかし同時に「これは会社としてではなく、自分でやった方が良い」とも思いました。お伝えした通り、当時は多忙を極め時間も体力も不足しており、また収入が安定しているとはいえない状況がありました。やるならばきちんと腰を据えて取り組んだ方が良いと思いましたし、想定される利益も十分。デリバリー事業については過去に経験したことがあり、需要があるものだと確信していましたし、自分の強みを活かすこともできる。これは転機かもしれない、と『はぐくみ弁当Plus』を活用しての独立を決めました。

実直に、しかしスピーディーに体制を構築したから今がある

岩本:間賀さまは未経験からの福祉事業で独立されるという大きな意思決定をされましたが、どのようなところが大変だったでしょうか。

間賀さま:福祉については何もわからない状況でしたが、GLUGのサポートが丁寧だったこともあり、開業までは何も問題なくこぎつけることができました。ただ福祉業界の制度は聞いていた以上に複雑で、作成しなければならない書類も多く、サポートがなければその時点で挫折していたと思います。

さらに、スタートしてからはさまざまなポイントで苦労がありました。お弁当の販売食数も順調に伸びましたし、利用者(施設を利用する障がい者)さまもスムーズに集まりましたが、オープン2ヵ月めにコロナによる第一次緊急事態宣言が発令され、多くの対応が余儀なくされました。

デリバリー業態のため他の産業と比較すれば影響は軽微といえるかもしれませんが、やはり新規向けの営業活動などはしづらくなりますし、採用にも少なくない影響が現れます。就労継続支援A型はハローワークや市役所の福祉課、相談支援事業所などの関連機関との連携も重要ですが、コロナ禍ではそこも苦労しました。

また、これは嬉しい悲鳴ではありますが、お弁当が売れすぎて慣れるまでは大変でした。最初は体制を構築しながらだったので一日130食ほどからスタートしましたが、半年後には270食を超え、一年後には460食に。いまでは一日700食以上販売しています。衛生面を考えると作成できる数にも限界があるため、捌けるようにオペレーションを整え続ける必要がありますが、私も現場も慣れるまでには時間がかかりました。

そのなかでも、お弁当のエンドユーザーへの接客から力を抜くわけにはいきません。配達員の接客態度はデリバリー事業の売上の肝だと思いますし、その売上がなければ利用者さまを雇用し続けることはできなくなります。そのため、日々増えていくお弁当を捌きながら、スタッフの教育体制もつくる必要がありました。

そして当然ながら、福祉についての知識も身に付けなければなりません。私もスタッフも未経験とはいえ、利用者さまにとっては頼らねばならない支援者ですし、行政に提出するデータや書類にミスがあれば問答無用でペナルティを受けます。GLUGに逐一相談しながら対応し、少しずつでも知識を学んでいくというのは、当時の多忙さのなかではなかなかに困難だったなと思います。

とはいえ、その環境でも投げ出さず、むしろ改善しようと頑張ってきたからこそのいまがあるとも思います。いまとなっては利用者さま35名、スタッフ21名を雇用できるほど成長・安定してきており、独立開業としては成功といえる部類なのではないかなと感じています。これもGLUGのおかげですね。

サポートの手厚さやレスポンスの早さにはいつも助けられていますし、研修が必要であれば都度実施してくれる。何より未経験の私にとってうれしかったのは、他事業所の有益な情報をタイムリーに受け取れることと、利用者さまの集客や採用をマニュアルだけでなく現場で実践してくれることでした。仮に自分自身で福祉事業を開業していたらと思うと、大変さは比にならなかったろうなと感じます。

健常者も障がい者も関係ない。常に改善を続けていく

岩本:福祉事業を経営するなかで、どのようなポイントに気を配っていますか?

間賀さま:まずお弁当に関しては、先ほどお伝えしたように接客の質を下げないことですね。デリバリーは新規のお客様を獲得することももちろん重要ですが、どれほど安定してリピートいただけるかがカギになると感じています。なので配達員には物腰の柔らかい方の多い主婦層をメインで起用し、彼女らが嫌がる作業はこちらで受け取ってでも、接客スキルについては徹底的に教え込むようにしています。

また、「就労継続支援A型はあくまでもビジネスである」「失敗すれば利用者さまから働くチャンスを奪うことになる」というのはスタッフ全員に伝えています。一人ひとりが責任を持ち、優しさだけでなく、時には厳しさを持って利用者さまのキャリアアップを支援する必要がありますし、この場を維持するためにはデリバリーも失敗する訳にはいきません。そのため、売上を伸ばすために全員で販売データを分析したり、福祉の法律や支援に関しての知識をアップデートするため定期的に座学研修を設けたりしています。

改善についてはスタッフだけでなく、利用者さまにも考えてもらっています。それはひとえに、どのようにすれば自分たちの給与を上げられるか。就労継続支援A型は働くためのスキルを身に付け、ゆくゆくは一般就労につなげるための場所です。自分の給与を上げるためには何をすれば良いか考え実行するのは、労働の基本ともいえます。だからこそ自身が何がしたいか、何が得意かは積極的に提示してもらうようにしていますし、それをかたちにできるよう仕事の種類を増やすような活動は欠かさないようにしています。

また、福祉事業所としては可能な限り仕組み化を進め、問題の事前対処、および事業所の運営改善につなげています。例えば利用者さまとの面談は月一回必ず実施し、その内容は面談前・面談後にご家族に共有することで、家庭と事業所全体で支援できる体制をとっています。一般就労に向けての活動についても支援内容を項目化することで全員に等しくサポートが行き届くようにし、属人化しないように心がけています。利用者さま一人ひとり障害特性は異なり、必要な支援も異なるからこそ、支援のベースとなる部分は均一化していくことが大事だと考えています。

利用者さまだけでなく、関わったすべての人に感謝を還元していきたい

岩本:最後に、今後の事業の展望をお聞きしてもよろしいでしょうか?

間賀さま:目先の目標としては、主軸の生産活動であるデリバリー事業をより安定させることですね。現在は450円・550円のお弁当がメインで700食ほど販売しているのですが、まだまだ伸ばせると思いますし、高単価のお弁当にも力を入れていきたい。弁当の数や種類が増えれば販売食数ももっと安定するでしょうし、それだけ利用者さまの仕事を増やすことができるので、この点については試行錯誤を続けていきます。

福祉事業においては、やはり就労継続支援A型事業所として、一般就労に移行する方を増やしていきたいですね。弊社ではこれまで6名の一般雇用者を輩出していますが、もっと増やせると思いますし、そのための活動も増やしていかねばなりません。現在でも弁当以外の作業をしたいという利用者さまのためにさまざまな企業さまから軽作業などの仕事を請けるなどの動きはとっていますが、これからは一般就労先になり得る企業さまの開拓も進めていきます。多くの企業で連携して、この地域の福祉に対する在り方自体を良い方向に進められればと思いますね。

弊社の事業としては、福祉事業の拡大を考えています。就労継続支援A型事業所の増設もそうですし、現状の弊社ではサポートできない障がい者も支援できるよう就労継続支援B型や、利用者さまの生活面を支援するため障がい者グループホームを展開できるよう進めています。そのほか、障がい者向けの居宅介護や就労移行支援なども視野に入っています。より多くの障がい者に多角的に支援できる会社にしていきたいですね。

そのためには私自身や社員一人ひとりがレベルアップする必要があります。福祉自体や利用者に対する知識、支援スキル、関係機関との連携強化……伸ばすべきポイントはいくらでもあります。しかしそれぞれが成長していった末には先述したような事業展開も可能になりますし、関係者に対しての還元もしていけるようになるなと。

福祉事業で成長・成功していけたら、社員やサービス管理責任者だけでなく、パートの方や利用者さまも含め、すべての従業員に還元したいと思っています。福祉事業で儲かっている経営者の話はよく聞きますが、スタッフや利用者さまの給与が上がっているかといえば、必ずしもそうではないと思います。理想論かもしれませんが、弊社ではそこをちゃんと上げていき、どの事業所よりも高賃金の会社にしていきたいですね。

岩本:素敵なお考えだと思います。達成させるためにも、今後とも伴走させてください。本日はありがとうございました。

<間賀さまの事業所>

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