新規事業の立ち上げを成功させるには?進め方の8つのプロセスや事例もご紹介

2024年6月3日

新規事業を立ち上げることは売上や利益の創出だけでなく、変化する時代のトレンドに対応できる人材育成やリスクヘッジの観点でも役立ちます。

多くの企業が新規事業の立ち上げをおこなっていますが、これから初めて新規事業を展開する場合はどのように進めていけば良いか分からない方もいるのではないでしょうか。

ここでは新規事業立ち上げのメリットや流れ、成功するためのポイント、成功事例などをご紹介していきます。

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TOPICS

「新規事業を立ち上げる」とは

多くの企業が新規事業の立ち上げを日々おこなっていますが、新規事業の立ち上げによって、どういった効果を期待できるのでしょうか。

ここでは新規事業を立ち上げることによって得られる主な効果をご紹介していきます。

新規事業の目的

以下のいずれかを目的として多くの企業が新規事業の立ち上げをおこなっています。

  • 競争力の維持・向上
  • リスクヘッジ
  • 人材の育成

それぞれご説明していきます。

競争力の維持・向上

企業としての競争力の維持・向上を目的として、新規事業の立ち上げをおこなう企業も一定数存在します。

これまで培ってきた既存事業のノウハウを活用した新規事業をつくることで、独自性を発揮できるほか、競争力をさらに強化していくことができます。

また新規事業で学んだ経験・技術を既存事業に活かすということもできるため、新規事業と既存事業に相乗効果も期待できるでしょう。

リスクヘッジ

たとえ今は大きな成功を収めている事業であったとしても、どのような分野も社会情勢や需要の変化などに大きな影響を受けるため、将来はどうなるか誰にも分かりません。

株式会社東京商工リサーチの調査によると、2020年以降の新型コロナウイルス関連による経営破綻社数は8,044件となり、未だに月間200社以上が経営破綻しています。

株式会社東京商工リサーチ「新型コロナウイルス」より、関連破たん数

既存事業を続けつつ、時代の需要に応じた新規事業を立ち上げることで万が一既存事業に打撃を受けた場合でも、その損失を新規事業から補填できます。

既存事業にトラブルが起きない場合も、複数の収益の柱があることでさらに安定した経営をおこなえるようになります。

人材の育成

会社として成長を続けるためには人材育成も必要不可欠となりますが、新規事業の立ち上げを任せることで自然と人材育成につながります。

新規事業はノウハウも何もない状態で進めていくため、立ち上げを任された社員はさまざまなアイデアを試しながら挑戦し続けなくてはなりません。

「立ち上げは優秀な人材を育成してから」と考える方もいるかもしれませんが、あえて新規事業の立ち上げを育成の手段として活用することで、人材の大きな成長を期待できます。

新規事業の役割

新規事業はビジネスチャンスの拡大・企業価値の向上という役割を担っており、初めての市場で新たな顧客を獲得することによって視野をさらに広げられます。

ただし闇雲に新規事業を立ち上げるだけでは上手くいかないおそれもあるため、あらかじめ事業戦略上で新規事業がどのような役割を果たすのかを明確にしておくことが望ましいです。

また新規事業が軌道に乗れば売上の柱を複数に増やせるため、既存企業の経営もさらに安定させることができます。

新規事業の形態

新規事業の立ち上げには、企業が展開する場合・個人起業家が始める場合・社内ベンチャーで起業する場合の3種類があります。

企業が新規事業を立ち上げる場合は自社の資金や設備などのリソースを活用できるため、スムーズに進めやすい傾向にあります。

個人起業家が新規事業を立ち上げる場合は資金・設備を自身で確保する必要があるものの、意思決定は事業を立ち上げる個人起業家がおこなうため、自由度が高くなります。

社内ベンチャーは大企業を中心に増えている制度で、企業に所属しながら独立したベンチャー企業のように社内で新規事業を立ち上げる制度です。

社内ベンチャーは個人で起業する感覚に近いですが、母体の所属企業からバックアップを受けられるため、個人の起業よりもリスクが小さくなります。

新規事業を成功させるための8つのプロセス

新規事業を立ち上げたくても、特に初めて取り組む場合はどのように進めていけば良いのか分からずに困っている方もいるのではないでしょうか。

新規事業の立ち上げは、以下8つのプロセスに沿って進めていくと円滑に立ち上げやすくなります。

  1. 自社・顧客の課題を見つける
  2. 事業のアイデアを生み出す
  3. 市場や競合、ターゲットを調査する
  4. 事業の理念・コンセプト・ビジョンを明確にする
  5. 事業計画を作成する
  6. 資金を調達する
  7. 会社を設立し事業をスタートする
  8. 成果を検証・評価・改善する

それぞれのプロセスをご説明していきます。

自社・顧客の課題を見つける

新規事業のアイデアを出す方法はさまざまですが、自社・顧客の課題から考えることで需要に応えられる新規事業につながりやすくなります。

自社や顧客、市場や業界が抱えている課題は需要と同義であり、「誰」の「どのような」課題を軽減・解消できるサービスなのかを考えることができれば、ニーズにつながり安定した売上を確保しやすくなります。

アイデアの種を少しでも確保するために課題の大小は考えずに、一旦は抱えている課題を可能な限り洗い出していくと良いでしょう。

事業のアイデアを生み出す

新規事業にも独自性は大切なポイントであるものの、どんなに斬新な新規事業でも想定している顧客から需要がなければ、事業として続けていくことができません。

事業のアイデアを生み出す方法はさまざまですが、今まで存在しなかった革新的な事業を思いつかなければならないというわけではありません。

他社が展開している成功事例をモチーフに、自身が培ってきた経験や専門性を組み合わせることで独自性の高い事業に仕上げることもできます。

市場や競合、ターゲットを調査する

事業を成功に導くためにも、市場・競合・ターゲットを可能な限り徹底的に調査しておきましょう。

調査不足の状態で事業を展開していくと、事業の強みを発揮できない・顧客との間にギャップが生まれてしまうなどのデメリットによって、事業が失敗に終わるおそれがあります。

逆に調査によって競合の弱みやターゲットのニーズを明確にできれば、成功できる可能性が高まります。

調査・分析の手法はフレームワークを用いての市場や競合の分析のほか、顧客インタビューやオンライン調査など、定量・定性それぞれに手法があるため、それらを組み合わせて実施すると良いでしょう。

事業の理念・コンセプト・ビジョンを明確にする

事業の理念・コンセプト・ビジョンが曖昧な状態では、顧客だけでなく従業員からも共感を得られづらくなることで経営が難航するリスクがあります。

事業の理念・コンセプト・ビジョンは事業の価値観であり、明確であればあるほど価値観が近い顧客から支持されやすくなり、経営に軸が生まれます。

あくまでも事業の理念・コンセプト・ビジョンは、顧客側の視点で考える必要があるため、独りよがりな内容にならないように注意しましょう。

事業計画を作成する

考案した新規事業が実現可能か考えるためには、可能な限り精緻な事業計画書が不可欠です。

事業の立ち上げを実現するために必要な資金や売上、アクションと実施する時期、対応する人材などを明確にした事業計画を策定しましょう。

このとき、曖昧な事業戦略だけではなく、KGIやKPI、KDIまで盛り込んだ明確な事業目標が作れると、事業開始後に振り返ることにも役立つでしょう。

また、外部で資金調達を受けるためには市場の動向など客観的なデータに基づく現実的な事業計画が必要であり、曖昧な状態では「信憑性がない」と判断され融資が難航してしまいます。

現実的な事業計画であれば立ち上げや経営にあたっての行動がしやすくなるほか、融資担当者も安心して融資を承認しやすくなります。

資金を調達する

事業計画で定めた資金を調達していきますが、企業内での新規事業の立ち上げの場合、多くのケースでは自己資本から資金調達をおこないます。

自己資本だけでは不十分、または調達できる資金が限られている場合は、外部金融機関の融資や行政の助成金・補助金などで資金調達を進めていく必要があります。

外部で資金調達をおこなう際は前述した事業計画が必要になるため、現実的で説得力のある内容に仕上げておきましょう。

また融資を受ける場合、万が一業績が悪くなってからの融資は難しい傾向がありますので、最初から運転資金も含めたうえで余裕のある金額を調達しましょう。

なお、資金調達額は業界や業種によって大きく変わりますが、参考までに日本政策金融公庫が発表した「2023年度新規開業実態調査」によると、新規開業における資金調達の平均額は1,180万円となっています。

会社を設立し事業をスタートする

企業内で事業を立ち上げる場合は必要ありませんが、新たに会社を設立する場合は、会社名の決定や会社概要をまとめた文書(定款)の提出など多岐にわたる対応を進めていく必要があります。

株式会社と合同会社で手続きの手順や設立費用が異なり、株式会社は登録免許税・定款認証手数料などでおおよそ25万円がかかり、合同会社の場合は10万円前後がかかります。

また申請後から受理までに一ヶ月近くかかる場合も珍しくないため、計画的な行動が大切です。

成果を検証・評価・改善する

会社設立後は、新規事業の経営を続ける中で成果を検証・評価・改善し、より成功に近づけていくことが重要です。

特に新規事業はどんなに現実的な事業計画を策定し実行に移していても、計画と成果に乖離が発生しやすい傾向にあり、軌道修正ができなければ損失につながるおそれがあります。

また、市場や競合、顧客の状況は日々変わるため、作成した事業計画は定期的に振り返るだけでなく、経営の評価や顧客からのフィードバック・競合調査によって修正をおこないましょう。

それにより、事業のリスクを最小限に抑えつつ、成功に導くための日頃からの成果の検証・評価・改善を実施することができます。

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新規事業の立ち上げを成功させるための6つのポイント

新規事業を立ち上げるからには、失敗はもちろん避けたいところですが、安定した利益を出せるのか心配な方もいるかもしれません。

ここでは新規事業を成功させる以下6つのポイントをご紹介していきます。

  • 自社の強みを活かす
  • リソースを把握し調達方法を見極める
  • 補助金や助成金を活用する
  • テクノロジーを活用する
  • 現場と経営陣の理解・協力を得る
  • 事業撤退のラインを定める

自社の強みを活かす

競合他社にはない自社ならではの強みを活かすことができれば、顧客から選ばれやすくなることで成功できる可能性が高まります。

競合他社と比較せずに「これが自社の強みだ」と考えた場合、実際には差別化できておらず、強みとはいえないケースもあります。

強みは定量的に判断する必要があり、調査のうえで判明した競合他社の弱み・自社にしか提供できない価値が独自の強みといえます。

リソースを把握し調達方法を見極める

ビジネスにおいてのリソースは、人材・商品・サービス・資金・時間などの経営資源の総称のことであり、新規事業の経営を成功させるうえではそれらの把握が重要です。

資金調達には前述した金融機関からの融資のほか、ベンチャーキャピタルなどの投資やクラウドファンディングによっても資金調達をおこなえます。

新規事業を経営していくうえで必要なスキルを持つ人材が社内にいない・育成の時間が足りない場合は、アウトソーシングを活用するのも一つの手です。

業態によっては外注することで本来必要な設備なども不要になることもあるため、特にリスクのある開業当初は上手に組み合わせることでスモールスタートするということも考えましょう。

補助金や助成金を活用する

新規事業を展開する際、要件に合致するようであれば国や行政が主催する補助金・助成金を積極的に活用しましょう。

国や行政などの団体が主催する補助金・助成金は返済義務がない仕組みであり、資金繰りが特に厳しい創業初期の負担を軽減できます。

助成金は必要要件を満たしていれば原則支給される制度ですが、補助金は審査に通過しなければ支給されないものの、数百万円単位と支給額が大きい傾向にあります。

テクノロジーを活用する

分析ツールやクラウドサービス、MA(マーケティングオートメーション)などのテクノロジーを活用して、市場動向や競合他社の分析、顧客ニーズの収集を進めましょう。

調査や分析、施策実行を人海戦術でおこなおうとすると莫大な時間・コストが発生してしまうおそれがありますが、ツールを導入することによってコスト削減・業務効率化を図れます。

ただし、導入するツールによっては専門的な知識がなければ使いこなせない種類もあるため、そうしたツールを導入する場合は外部専門家と連携を取りましょう。

現場と経営陣の理解・協力を得る

新規事業を立ち上げるためには現場と経営陣の理解・協力が必要不可欠であり、うまく連携できなければ思うように進められません。

特に経営陣がトップダウンで新規事業の立ち上げを現場に命じる場合は、新規事業を立ち上げる目的が伝わっていないことで立ち上げが難航してしまうおそれがあります。

新規事業の立ち上げがどういった目的で、なぜ今のタイミングなのかまで明確に伝えることが最低限必要で、場合によっては現場からの課題や反対意見についてもヒアリングしましょう。

経営判断のみで現場を振り回してしまうと成果が上がらないばかりか、従業員の疲弊にもつながります。

そのため、経営陣と現場で向いている方向や熱量が異なるということがないように綿密に連携を取りましょう。

事業撤退のラインを定める

どんなに素晴らしいと思えるような新規事業であったとしても成功が保証されている訳ではないため、立ち上げる前から事業撤退のラインを決めておきましょう。

行動経済学では、支払ったコストを惜しんで続行しさらなる損失を発生させてしまう非合理的な心理をサンクコスト効果と呼びます。

サンクコスト効果が働くと収益が苦しい状態でも経営を続けてしまい、大きな損失につながるおそれがあるため、撤退ラインを設定し損失を最小限に抑えましょう。

新規事業の戦略

新規事業の立ち上げ後は、目的や成長フェーズに応じた適切な戦略をとっていく必要があります。

ここでは新規事業における主な戦略をご紹介していきます。

多角化戦略

多角化戦略とは、自社の経営資源を応用して新しい市場で新商品・新サービスを展開する戦略のことです。

既存事業と関連する新しい分野で事業を広げることもあれば、まったくの未知の分野を開拓することもある戦略で、時代のトレンドに対応することができます。

新規事業として展開することもできますが、経営が確立されている他社の買収(M&A)で新規事業を吸収する場合、経営資源をそのまま活用できるため効率的に進められます。

新製品・サービス開発戦略

新製品・サービス開発戦略とは、すでに参入している既存市場で新しい商品・サービスを展開する戦略のことです。

新商品と既存商品を差別化する必要があるものの、これまで自社で培ってきた経験・技術をそのまま応用できるため、未知の市場に参入するよりもリスクが低い傾向にあります。

主なターゲットは既存顧客や競合他社の顧客であり、今後も需要が増していくと考えられる市場であれば効果的な戦略です。

新規市場開拓戦略

新規市場開拓戦略とは、まだ参入していない新しい市場で既存商品・サービスを売り出す戦略のことです。

例えば国内だけで販売していた商品を米国市場で販売する、一般企業向けに提供しているツールを個人向けにも案内するといった戦略を指します。

新規市場開拓戦略は、新しい市場の分析をおこなったうえで顧客に刺さるプロモーションが重要になります。

事業転換戦略

事業転換戦略とは、これまで続けていた既存事業を縮小・廃止したうえで新たな事業へ再構築する戦略のことです。

新しい市場で新商品・新サービスを展開する点では多角化戦略と同様ですが、事業転換戦略は既存事業を縮小・廃止したうえでおこなう戦略であるため、リスクが高くなります。

需要が低下した既存事業を時代のニーズに応じた事業に生まれ変わらせるために、商品・サービスを一新させたり、ターゲットを再定義したりするなどして新しい事業を展開します。

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新規事業の立ち上げを成功させるフレームワーク5つ

新規事業の立ち上げを成功させるためには、フレームワークを使って考えていくと良いでしょう。

フレームワークは意思決定や課題解決、計画を練る際に用いられる枠組みのことで、情報の整理や目標を達成するための解決策が思いつきやすくなります。

ここでは新規事業の立ち上げで活用されることが多いフレームワークを以下の5種類別にご紹介していきます。

  • アイデアを生み出すためのフレームワーク
  • 市場調査のためのフレームワーク
  • 事業のモデルを構築するためのフレームワーク
  • 効果的なマーケティングをおこなうためのフレームワーク
  • 事業の評価・改善のためのフレームワーク

アイデアを生み出すためのフレームワーク

新規事業を立ち上げる前段階として優れた事業のアイデアが重要であり、アイデアに基づいて目標や事業計画の策定などがおこなわれます。

新規事業の成功はアイデアにかかっているといっても過言ではありませんが、「アイデアがなかなか思いつかない」と困っている方もいるでしょう。

ここではアイデアが思いつきやすくなる主なフレームワークをご紹介していきます。

フォアキャスティング

フォアキャスティングとは、現在の状況を起点として将来的に達成したいゴールを考えるフレームワークで、人は無意識にフォアキャスティングで物事を思考しています。

過去や現在の実績から新規事業のアイデアを考えるため、堅実な内容になりやすく失敗するリスクも低くなる傾向にあります。

その一方でアイデアの幅が狭いという欠点もあり、本当にやりたい新規事業があってもフォアキャスティングをおこなったことで諦めが生じてしまうこともあります。

新規事業の立ち上げでどうしても失敗できない場合は、このフォアキャスティングに頼ると良いでしょう。

バックキャスティング

バックキャスティングはフォアキャスティングの対となるフレームワークで、実現したい未来から今おこなうべき事業などを逆算して考えます。

単純な逆算思考ではなく、未来のビジョンは可能な限り明確にし、そのゴールに到達するための施策や事業を徹底的に考えていきます。

過去や現在を考慮しないため、革新的なアイデアを思いつきやすいフレームワークであり、現在の延長線を辿るだけでは実現できなかった大きな成果につながる場合もあります。

枠にとらわれない革新的なアイデアを思いつきやすいことから、実現できない目標になりやすいというデメリットもあり、設定する目標は実現可能な範囲に留めることが大切です。

マンダラート

マンダラートは9×9の81マスにキーワードを記入するフレームワークで、メジャーリーガー大谷翔平選手が学生時代に作成したマンダラートが有名です。

マス目の中央にメインテーマを記入・周囲に関連キーワードを記入することで短時間で大量のアイデアを強制的に出しやすいという特徴があります。

また1つのテーマに対して80個のアイデアを出していくため、深い思考が可能で今まで思いつかなかったようなアイデアも提案しやすくなります。

他のフレームワークとも組み合わせやすいマンダラートですが、マス目が埋まりきらない場合は深掘りできないメインテーマを選んでいることが原因になるため、やり直しましょう。

市場調査のためのフレームワーク

新規事業を成功させるためには市場調査が重要で、市場のニーズやトレンドを理解できれば大きな売上も期待できるでしょう。

市場調査は外部専門家に頼るという方法もあるものの、ある程度は自分たちでも調査しておくことで外部専門家との連携を深められます。

ここでは市場調査の主なフレームワークをご紹介していきます。

STP理論

STP分析は、市場を細分化(Segmentation)、自社の強みを活かせる市場をターゲティング(Targeting)し、競合との位置関係を特定(Positionning)するフレームワークです。

「マーケティングの神様」とも称される世界的に著名な経営学者フィリップ・コトラー氏が提唱する手法で、競合の優位に立てる市場の把握や差別化を図るうえで役立ちます。

STP理論は、細分化・ターゲティング・位置関係の把握の3ステップで分析していきますが、必ずしも順番通りに進めなければならないということはなく順番を入れ替えても問題ありません。

あくまでもSTP理論は市場調査で活躍するフレームワークであるため、他のフレームワークとも組み合わせてさらにニーズを深掘りしていくと良いでしょう。

SWOT分析

SWOT分析は、企業の状況を強み(Strength)・弱み(Weakness)・機会(Opportunity)・脅威(Threat)という4つの要素から分析する手法です。

プラス要因とマイナス要因に分類することで、企業の改善点や将来的に発生するおそれがあるリスクなどを客観的に把握することができます。

SWOT分析の仕組み上、徹底的に情報を洗い出す必要があるため、経営陣だけでなく現場メンバーなども集めて議論を進めていくことが望ましいです。

この手法は客観的に全体の状況を把握できる一方で、プラス要因かマイナス要因のどちらかに分類しなければならないほか、メンバーの考え方で内容が前後するというデメリットがあります。

ファイブフォース分析

ファイブフォース分析は、自社を取り巻く脅威を以下5つの項目に分類することで収益性や自社の優位性を把握するための手法です。

  • 業界内での競争による脅威(既存企業との競争)
  • 業界への新規参入企業の脅威
  • 代替品の脅威
  • 買い手の交渉力
  • 売り手の交渉力

このファイブフォース分析は、新規参入を検討している業界の収益構造や自社が得られる収益の目安を把握する際にも役立ち、効果的な戦略を練りやすくなります。

事業のモデルを構築するためのフレームワーク

新規事業が安定した利益を確保しつつ、成長し続けていくためには優れた事業モデルを構築する必要があります。

事業モデルを構築する方法はさまざまですが、フレームワークを活用することで優れた事業モデルを構築しやすくなります。

ここでは事業モデルを構築するための主なフレームワークをご紹介していきます。

ビジネスモデルキャンバス(BMC)

ビジネスモデルキャンパス(BMC)とは、自社が展開するビジネスモデルを整理・分かりやすく可視化するためのフレームワークのことです。

複雑なビジネスモデルでも可視化することで、本当に需要がある顧客や提供できる価値、自社の強み・弱みなどを把握できるため、効果的な戦略を立てやすくなります。

可視化する項目は顧客セグメント・価値提案・チャネル・コスト構造など多岐にわたり、従業員や外部専門家などの関係者の理解を深めることで連携を強化できます。

4C分析

4C分析とは、顧客視点で商品・サービスを考えるためのフレームワークのことで以下4つの視点で事業を分析します。

  • 顧客にとっての価値(Customer Value)
  • 顧客の費用や時間などのコスト(Cost)
  • 顧客が効率的に購入できるか(Convenience)
  • 顧客との接点が十分か(Communication)

コストは商品・サービスの相場価格が最適というわけではなく、あくまでも顧客がどう感じるかが前提になります。

高額であったとしても価格以上の質であれば「安い」状態であるため、顧客の購買につなげられますが、いくら安い価格でも価格以下の質であれば顧客の購買が難しくなります。

4P分析

4P分析は前述した顧客視点の4C分析の対となるフレームワークで、以下4つの企業視点で商品・サービスを分析します。

  • 提供する商品・サービス(Product)
  • 顧客に提供する価格(Price)
  • 流通チャネル(Place)
  • 広告・販売促進(Promotion)

1960年にマーケティング学者のエドモンド・ジェローム・マッカーシー氏が提唱した分析手法で、現在は顧客視点の4C分析がメインとなりつつあります。

しかし4C分析・4P分析の両者は構成される視点が異なるため、総合的に事業モデルを考えたり、商品・サービスの質を追求するうえではどちらも併用することが望ましいといえます。

効果的なマーケティングをおこなうためのフレームワーク

どんなに素晴らしい商品・サービスでも需要がある顧客に提供できなければ、安定した売上を確保できません。

需要がある顧客に商品・サービスを届けるためには、効果的なマーケティングを日頃からおこなう必要があります。

ここでは効果的なマーケティングをおこなうための主なフレームワークをご紹介していきます。

6W2H

6W2Hは、以下8つの要素からなるフレームワークで事業の目的や方向性など総合的に確認する際に向いている手法です。

  • いつ(When)
  • どこで(Where)
  • だれが(Who)
  • だれに(Whom)
  • なにを(What)
  • なぜ(Why)
  • どのように(How)
  • いくらで(How much)

担当メンバーやスケジュールなど、6W2Hをおこなう際に洗い出しが必要な情報は事前に明確にしておきましょう。

6W2Hは情報が曖昧な状態では精度が大きく下がり、十分な分析ができなくなってしまいます。

AIDMA(アイドマ)

AIDMA(アイドマ)はターゲットとなる顧客の購買行動を可視化するためのフレームワークで、名称は以下5段階のプロセスの頭文字から取っています。

  • 注意(Attention)
  • 関心(Interest)
  • 欲求(Desire)
  • 記憶(Memory)
  • 行動(Action)

AIDMAを活用することによって顧客がどのプロセスにいるのかを特定することが可能であり、顧客別に効果的なアプローチを実施できます。

AIDMAは1920年代にサミュエル・ローランド・ホール氏が提唱した法則ですが、購買行動の基礎となるフレームワークであり、現在に至るまで活用されています。

なぜなぜ分析

なぜなぜ分析は、「なぜ」という問いかけを5回繰り返すことで発生した問題の根本的な原因を探るフレームワークで、トヨタ自動車で生み出されました。

なぜなぜ分析を効果的におこなうためには、議題を明確にしたうえで事実を連鎖させていく必要があります。

また事実であったとしても複数の回答をまとめてしまうと抽象的な原因にしかたどり着けないため、複数の事実は別々に掘り下げていくことが大切です。

幅広い分野で活用されているなぜなぜ分析ですが、マーケティングにおいても売上アップの改善に使えるため、積極的に用いると良いでしょう。

事業の評価・改善のためのフレームワーク

新規事業立ち上げ後は日頃から事業の評価・改善をおこなうことで、事業をより成功に近づけていく必要があります。

また事業の評価・改善を徹底していれば、損失が生じた場合も計画変更や事業撤退の判断も下しやすくなります。

ここでは事業の評価・改善のための主なフレームワークをご紹介していきます。

PLC(プロダクトライフサイクル)

PLC(プロダクトライフサイクル)は、導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つからなる製品・事業の成長パターンのことです。

PLCによって現在の事業がどのステージに位置するかを分析できるため、効果的な戦略を立てやすくなります。

ただし、渦中にいる間は正確にどのステージに入っているのか判断することは難しい傾向にあり、実際には衰退期にも関わらず成長期だと誤解してしまう場合もあります。

また人々の価値観の多様化やSNSの普及で情報拡散のスピードが速くなったなどの理由からPLCが短くなっている傾向にあります。

ECRS(イクルス)

ECRS(イクルス)は、以下4つの視点から業務改善に取り組むためのフレームワークであり、E・C・R・Sの順番通りに実施することで効果が高まります。

  • 排除(Eliminate):不要な業務・工程をなくします。
  • 結合・分離(Combine):似た業務を統合・分割で煩雑な工程を解消します。
  • 交換・代替(Rearrange):作業工程の入れ替えや代替案の採用をおこないます。
  • 簡素化(Simplify):複雑化している作業工程を簡易化します。

業務改善は多くの企業が取り組んでいるものの、改善するための戦略が不十分なことで思うように作業効率を向上できないことも珍しくありません。

ECRSによって余計な作業・工程を排除することで業務全体の効率向上を図れるだけでなく、複雑な工程が原因のミスも同時に防止することができます。

KPI

KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)は、目標達成の度合いを定量的に計測・評価するための指標であり、目標に対する進捗を確認・改善する際に役立ちます。

KPIは最終目標を達成するための中間目標であり、KPIを設定することで従業員がどういった行動をとるべきか、どの程度の成果を出せば良いのかが明確になります。

KPIは定量的で実現可能であることが条件であり、非現実的な数値をKPIとして定めた場合は達成できないだけでなく、従業員のモチベーションが低下する要因になります。

新規事業立ち上げの成功事例3選

ここまで新規事業立ち上げの概要や主な流れ、成功させるためのポイントなどを説明しましたが、どのような事例があるのでしょうか。

ここでは新規事業の代表的な成功例をご紹介していきます。

富士フイルム株式会社

富士フイルム株式会社のもともとのメインとなる事業は写真フィルムやカメラの製造販売でしたが、市場規模の縮小に伴い事業転換戦略を図りました。

本格的に参入した主な新規事業は化粧品事業・医薬品事業・再生医療事業という3つの異業種で、意外だと思われた方もいるかもしれません。

実は化粧品・医薬品・再生医療で求められている知識・技術は、写真フィルムの知識・技術と類似しており、富士フイルム株式会社の経験が十分に活用できる状態でした。

富士フイルム株式会社は異業種に参入後、これまで写真フィルムで培ってきた技術を応用し、多くの化粧品・医薬品などの開発に成功したことで急激な成長を遂げています。

ソニーグループ株式会社

もともとソニーグループ株式会社は大手電機メーカーでしたが、顧客のニーズに応じるために異業種にも積極的に参入し、世界的に有名な大企業に成長しています。

新規事業として立ち上げた業種は以下のように多岐にわたっており、外資企業の買収・合併によって異業種への参入でも安定した経営をおこなっています。

  • 金融事業のソニー生命
  • 映画製作事業のソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • ビデオゲーム事業のソニー・インタラクティブエンタテインメント
  • 音楽事業のソニー・ミュージックエンタテインメントなど

現在は映画や音楽、ゲームなどのエンタテインメント事業を中心に売上を伸ばしているようです。

株式会社日立製作所

世界的な大手家電メーカーの株式会社日立製作所は、新事業として経営課題や顧客の悩みを解消できるloTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」の展開を始めました。

世界中に販売拠点を置く株式会社日立製作所はグループ会社数も多いため、蓄積されたデータも膨大であり、データを活用することで経営課題の解消につながります。

急激な需要変動や最適なコスト削減などを人力で対応する場合は、仮説の検証・分析に時間がかかるだけでなく、改善案が必ずしも最適であるとは限りません。

Lumadaの場合は膨大なデータから複雑な分析・高精度な検証をおこなったうえで最適な提案ができるため、多くの企業がLumadaを活用しています。

まとめ

新規事業によって柔軟に時代のトレンドに対応できるほか、成功すれば既存企業の経営もさらに安定させることができるため、多くの企業が新規事業の立ち上げに取り組んでいます。

新規事業を闇雲に立ち上げるだけでは失敗に終わるおそれがあるため、新規事業の目的を明確にしたうえでご紹介したフレームワークで深掘りし、成功する確立を上げましょう。

なおGLUGでは、障害福祉・飲食の領域において開業から経営改善までトータルサポートしており、これまで1,000社以上のご相談に対応しています。

福祉事業やGLUGのサポートについて詳しく知りたい方はこちらのページもご確認ください。

GLUGでトータルサポートしている障害福祉・飲食事業は新規事業の候補としてもおすすめで、異業種から参入されたクライアント様も多くいらっしゃいます。

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担当者T.Aのイラスト

記事の監修者

平林 英雄

行政書士・保育士・AFP

新卒でコンサルティング会社に入社し、10年間にわたり中小企業の経営計画策定や新規事業の立ち上げ支援に従事。飲食、介護、福祉分野のチェーン本部を経験した後、独立し行政書士としての活動を開始。
現在は法人設立や資金調達などの創業支援、許認可取得や補助金申請などの中小企業支援をおこなっている。2021年より中小企業庁の認定経営革新等支援機関。