障害者雇用におけるトラブルの事例と対処法|防止のポイントも解説

2024年11月20日

障害者雇用におけるトラブルの事例と対処法|防止のポイントも解説

2024年10月現在の障害者雇用における法定雇用率は2.5%ですが、2026年7月には法定雇用率2.7%以上になることが決定しています。

企業には法定雇用率以上で障害者雇用の従業員を雇用することが義務付けられており、障害者雇用枠で働く方も年々増加していますが、その一方で障害特性への配慮不足などが原因で離職などのトラブルが起きる場合もあります。

今回は障害者雇用の退職状況やトラブルの事例、企業が事前におこなうべきトラブル防止策などを紹介していきます。

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障害者雇用での退職の状況とは

障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)によって、対象となる企業は障害者雇用が義務付けられており、法定雇用率を守らなければなりません。

多くの企業で障害者雇用が義務付けられているものの、障害者雇用は一般雇用よりも職場への定着率が低い傾向にあります。

厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によれば、2023年の一般雇用における1年間の定着率は84.6%(退職率15.4%)です。

その一方で障害者雇用は独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者の就業状況等に関する調査研究」で説明されている通り、1年間の平均定着率は平均62.4%に留まっています。

参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の「障害者の就業状況等に関する調査研究

今回は簡易的な説明となりましたが、さらに詳しく障害者雇用を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
障害者雇用とは?条件や助成金、支援制度を解説

障害者雇用におけるトラブルの事例

多くの企業で法定雇用率以上の障害者雇用が義務付けられていますが、配慮不足などが原因となって、雇用後に退職されてしまうケースもあります。

ここでは障害者雇用におけるトラブルの事例と雇用後の対処法を紹介していきます。

病気の悪化

障害者雇用の従業員が就職・転職からトラブルなくスムーズに仕事をおこなっていて、どんなに周囲からの評価が高くても病気の悪化によって退職になってしまうケースがあります。

主な原因は障害者雇用の方が周囲の期待に応えようと自分の限界を超えて、張り切り過ぎてしまい、病気の悪化を招くことです。

普段は仕事を真面目に頑張っている方なのに急に遅刻や欠勤、ミスなどが増えてきた場合は、本人の限界を超えて頑張り過ぎている場合があるため、日常的に障害者雇用の従業員の様子を伺うほか、定期的な面談を実施しましょう。

職場の配慮不足

障害特性の無理解や十分な受け入れ態勢が整っていなければ、円滑に仕事をおこなうことが難しくなり、障害者雇用の従業員に最終的に退職されてしまうケースもあります。

また上長や人事が障害特性を理解していても、障害者雇用の従業員が所属する現場が十分に理解していなければストレスを与えてしまいます。

例えば聴覚障害を持つ従業員のために入社当初は議事録の共有や手話通訳でサポートしていたのにも関わらず、仕事が慣れてきた段階でサポートをなくしたり自分から聞いて欲しいというスタンスに変えてしまうと、働き続けることが難しくなってしまいます。

障害者雇用の従業員の配慮は仕事をしてもらううえで必須となるサポートであり、仕事に慣れてきたとしても配慮し続ける必要があります。

コミュニケーショントラブル

特に発達障害を持つ従業員の場合、暗黙の了解やマナーなどを把握することが難しく、相手の気持ちや立場、状況にそぐわない言動をしてしまうこともあります。

また自分のこだわりに執着する発達障害を持つ従業員も存在し、相手にも例外を認めずに独断で行動してしまうことで仕事で大きなトラブル・ミスにつながるケースもあります。

面談を実施しても「不利な扱いを受けるのでは?」という不安から本当のことを話してくれない場合があるほか、従業員が意図する意味と企業の担当者が受け止めている意味がそれぞれ違うケースも珍しくないため、従業員を理解できるように具体的でシンプルなコミュニケーションを心掛けることが大切です。

仕事がスムーズに進められない

障害者雇用の従業員の中にはマルチタスクや突発的な仕事、短納期が苦手とする方も存在し、スケジュール通りに仕事を進められないことでトラブルやミスに発展してしまうケースもあります。

また業務指示や相談先が曖昧な場合、どのように仕事を進めていけばいいのか把握することが難しく、業務が滞る原因となります。

障害者雇用の従業員に必要な配慮を把握した上で、業務フローの明確化や報連相のルール化、上長からのフォローなど、円滑に仕事ができるように受け入れ態勢を十分に整えておくことが大切です。

評価が難しい

企業側が障害者雇用の従業員を適正に評価しているつもりでも、不満を持たれてしまい、離職につながってしまうケースもあります。

障害があることを理由に不当に扱うことは障害者雇用促進法で禁止されており、ほとんどの企業が障害者雇用の従業員の能力に基づいて評価していますが、説明不足が原因で判断基準が十分に伝わっていない場合があります。

また業務内容が従業員の障害特性にマッチしていない場合もあり、本来の能力を発揮できないことで不満を抱えてしまっているケースも存在します。

障害者雇用の従業員に適した昇進・昇給制度を整えたうえで、評価の判断基準の説明やキャリアアップのためのアドバイスなど不満を軽減できるような配慮をおこなうと良いでしょう。

トラブルを事前に防止するために大切なこととは

トラブル発生前にあらかじめ防止策を取り入れておくことで、障害者雇用の従業員はもちろん、一緒に働く現場のメンバーの負担も軽減できます。

ここでは障害者雇用の際に事前におこなうべき主な防止策を紹介していきます。

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障害特性の理解を深める

障害者雇用の場合、事前に障害の種別が開示されたうえで採用をおこなうことがほとんどですが、障害者雇用の従業員の上長や人事だけが障害特性を理解していても、現場が適正な配慮を把握していなければ余計な負担を与えてしまうおそれがあります。

現場はもちろん、業務で関わる関連部署も参加する形で勉強会や研修を実施し、障害の種別や度合い、必要な配慮を理解できるようにしつつ、何かあった場合の相談体制を整えておくことで企業側の配慮不足を防ぎやすくなります。

障害者雇用の従業員の状態を常に把握する

トラブルを防ぐために障害者雇用の従業員の表情や声色、言動などを日頃から確認した上で面談を実施し、心身の状態を常に把握しておくようにしましょう。

障害者雇用の従業員から相談がなく、表面的には問題ないように見えたとしても、実は悩み事を1人で抱え込んだまま限界を超えて頑張り続けている場合も珍しくありません。

また障害者雇用の従業員の言葉と企業側が受け止めている意味がそれぞれ違うこともあり、話し合いで解決できたと思っても本人の中ではまだ解決していない場合もあるため、必要に応じて面談を実施し、不安を可能な限り取り除くようにすると良いでしょう。

ジョブコーチを活用する

障害の理解を深めていても適切な対応ができるか不安な場合は、職場定着の専門家であるジョブコーチを活用すると良いでしょう。

ジョブコーチ(職場適応援助者)とは、障害を持つ従業員が職場に定着できるようにジョブコーチが職場に出向いて、専門的な支援を支援をおこなう事業です。

ジョブコーチには地域障害者職業センターに所属する配置型・就労支援をおこなう福祉事業が雇用する訪問型・障害を持つ方を雇う一般企業が雇用する雇用型の3種類がありますが、そのいずれも助成金を活用することができます。

例えば独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、以下2種類の助成金を支給しており、ジョブコーチの利用で発生する企業の負担を軽減しています。

  1. 訪問型職場適応援助者助成金・訪問型職場適応援助者の中高年齢等措置に係る助成金
  2. 企業在籍型職場適応援助者助成金・企業在籍型職場適応援助者の中高年齢等措置に係る助成金

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まとめ

多くの企業が障害者雇用で法定雇用率以上を維持することが義務付けられていますが、雇った後も障害を持つ従業員が職場で定着できるようにサポートしていく必要があり、配慮不足などが原因ですぐに退職されてしまった場合は法定雇用率を維持できません。

受け入れ体制の構築や障害特性への配慮などを障害者雇用と同時並行でおこなった場合は、十分な対応ができないおそれがあるため、計画的に対応することが大切です。

この記事を参考に障害を持つ方が安心して働ける環境を構築したうえで障害者雇用に取り組んでいきましょう。

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担当者T.Aのイラスト

記事の監修者

T.A

社会福祉士、社会教育主事、サービス管理責任者

福祉系大学卒業後、社会福祉法人にて就労継続支援A型事業の立ち上げにジョイン。業務指導と併せて商品開発や営業に従事。また同法人にて放課後等デイサービス事業や相談支援事業、就労継続支援B型事業などの立ち上げをおこなう。
その後、特例子会社にてBPO業務管理や障がいのあるメンバーのマネジメントや採用に携わり、現在は福祉コンサルティング会社にて福祉事業のSVとしてクライアントの運営サポートをおこなっている。