障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)によって、対象となる企業は障害者雇用が義務付けられており、法定雇用率を守らなければなりません。
法定雇用率は定期的に改定されるため、どの企業においても内容を把握しておかなければなりませんが、これから障害者雇用に取り組む方はどのように対応を進めれば良いのか分からないのではないでしょうか。
そこで今回は障害者雇用の基礎知識や課せられる4つの義務、違反した場合のペナルティ、法定雇用率を守るための対応などを紹介していきます。
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障害者雇用における義務とは?
障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)によって、条件を満たす企業は一定以上の割合で障害を持つ方を雇用することが義務付けられています。
障害者雇用促進法は、名前の通り障害を持つ方の職業の安定を図る法律であり、より良い支援のために状況に応じて、たびたび改正され続けています。
前身は1960年に制定された戦争で負傷した傷痍軍人などの身体障害を持つ方を支援するための身体障害者雇用促進法であり、その後に身体障害のみから知的障害・発達障害・精神障害などの対象が拡大し、現在の障害者雇用促進法が成り立ちました。
今後も法定雇用率の改定などがおこなわれることが決定しており、今までは対象外だった企業も障害者雇用を義務付けられる可能性があるため、どのような企業の場合も障害者雇用促進法の内容を把握しておくことが望ましいです。
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障害者雇用促進法による4つの義務
障害者雇用促進法では、障害を持つ方の職業の安定と分け隔てなく共存する社会を実現するために、該当する企業に対して以下4つの対応を義務付けています。
- 障害者差別の禁止と合理的配慮の提供
- 法定雇用率以上での障害者の雇用
- 障害者の雇用状況の報告
- 障害者職業生活相談員の選任
それぞれ解説していきます。
障害者差別の禁止と合理的配慮の提供
障害者雇用促進法第二章の二の第三十四条・第三十五条・第三六条の二で障害者差別の禁止と合理的配慮が義務付けられています。
【第三十四条】
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。
【第三十五条】
事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。
【第三十六条の二】
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
出典:e-GOV法令検索「障害者雇用促進法」
この義務は日本国内の全ての企業に対して義務付けられており、障害者の雇用の有無に問わず守らなければなりません。
法定雇用率以上での障害者の雇用
条件や計算方法などは後述しますが、障害者雇用促進法第四十三条によって条件を満たす企業は法定雇用率以上の人数で障害を持つ方を雇用するように義務付けられています。
【第四十三条】
事業主(常時雇用する労働者(以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。次章及び第八十一条の二を除き、以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する対象障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。
出典:e-GOV法令検索「障害者雇用促進法」
障害者の雇用状況の報告
障害者雇用促進法第四十三条の7と第八十一条によって、障害者雇用の対象になる企業は毎年障害者の雇用状況をハローワークに報告するように義務付けられています。
毎年送られてくる障害者雇用状況報告書に必要事項を記入したうえで返送するか、電子申請で雇用状況を報告するようにしましょう。
また障害を持つ従業員を解雇する場合は、管轄のハローワークに解雇届を提出しなければなりません。
第四十三条の7
事業主(その雇用する労働者の数が常時厚生労働省令で定める数以上である事業主に限る。)は、毎年一回、厚生労働省令で定めるところにより、対象障害者である労働者の雇用に関する状況を厚生労働大臣に報告しなければならない。
第八十一条
事業主は、障害者である労働者を解雇する場合(労働者の責めに帰すべき理由により解雇する場合その他厚生労働省令で定める場合を除く。)には、厚生労働省令で定めるところにより、その旨を公共職業安定所長に届け出なければならない。
出典:e-GOV法令検索「障害者雇用促進法」
障害者職業生活相談員の選任
障害者雇用促進法第七十九条の2によって、障害を持つ方を5人以上雇用する場合は厚生労働省が定める相談員の資格を持つ従業員から障害者職業生活相談員を選任し、対応するように義務付けています。
第七十九条の2
事業主は、厚生労働省令で定める数以上の障害者である労働者を雇用する事業所においては、その雇用する労働者であつて、資格認定講習を修了したものその他厚生労働省令で定める資格を有するもののうちから、厚生労働省令で定めるところにより、障害者職業生活相談員を選任し、その者に当該事業所に雇用されている障害者である労働者の職業生活に関する相談及び指導を行わせなければならない。
出典:e-GOV法令検索「障害者雇用促進法」
障害者職業生活相談員になるには、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が全国で毎年開催している障害者職業生活相談員資格認定講習を受講する必要があるため、計画的な行動が大切です。
障害者雇用が義務付けられる企業とは
障害者雇用促進法で障害を持つ方の雇用を義務付けられている企業は、常時雇用する従業員が40人以上の場合であり、法定雇用率2.5%以上(2024年10月現在)を守らなければなりません。
2026年7月には法定雇用率2.7%以上(従業員37.5人以上を雇用している企業)に改定することが計画されており、障害者雇用の対象企業が拡大するため、事前に算定・自社で義務付けられている雇用人数を把握しておきましょう。
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障害者実雇用率の算定方法
雇用が必要な障害を持つ方の人数は自社で常時雇用する従業員数で変わるため、以下の計算式で算定する必要があります。
雇用が必要な障害を持つ方の人数=常用雇用の従業員数×法定雇用率2.5%
小数点以下は切り捨てとなり、単純計算をすると常時雇用する従業員数40人の場合は障害を持つ方1人を雇用することが義務付けられています。
ただし、常時雇用の従業員や雇用が必要な障害を持つ方のカウント方法にはそれぞれ定義があり、正しく算定できなければ法定雇用率に達しない・違反に気づいていないという問題が発生するおそれがあります。
ここでは障害者雇用の対象となる方や常時雇用のカウント方法、雇った後の実雇用率の算定方法を解説していきます。
対象となる障害を持つ方
対象となる障害を持つ方は自治体から発行されている障害者手帳を所持している方となります。
障害者手帳を保有していない方の場合、現時点の障害者雇用促進法では雇用しても法定雇用率に影響しません。
障害者手帳は一定以上の主に次の障害を持つ方が発行できる手帳のことであり、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳の3種類があります。
- 身体障害
- 知的障害
- 精神障害
- 発達障害
常時雇用する従業員数のカウント方法
自社で常時雇用する従業員は、1年を超えて継続して雇用されている従業員もしくは1年以上継続しての雇用が見込まれる従業員のことです。
正社員やパート・アルバイトなど雇用形態を問わずに以下の条件に当てはまる従業員は常時雇用の従業員としてカウントする必要があります。
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「障害者雇用納付金」
常時雇用している従業員でも週の所定労働時間が20時間未満の場合は、常時雇用の従業員としてはカウントしません。
事業所全体の常時雇用労働者が30人、短時間労働者が10人の合計40人の従業員を雇用している場合、短時間労働者は0.5人としてカウントするため、常時雇用の従業員は35人となります。
前述した雇用が必要な障害を持つ方の人数=常用雇用の従業員数(35人)×法定雇用率2.5%で計算すると0.875で1人未満となるため、障害者雇用の義務がありません。
常時雇用労働者が30人、短時間労働者が20人の合計50人の従業員を雇用している場合は雇用が必要な障害を持つ方は1人という計算になります。
障害を持つ方の雇用人数のカウント方法
障害を持つ方の雇用人数のカウント方法は、障害の度合いと週の所定労働時間によって変わります。
障害を持つ方のカウント方法は、以下の通りです。
出典:厚生労働省「障害者雇用率制度について」
重度の身体障害、もしくは重度の知的障害を持つ方の場合は1人の雇用で2人分とするダブルカウントが適用されますが、精神障害の場合の障害者手帳には重度に該当する区分が現時点ではないため、1人分になります。
実雇用率の計算式
実雇用率は実際に自社で雇用している障害を持つ方のパーセンテージであり、常時雇用の従業員数と障害を持つ方の雇用人数ですでに雇用している自社の障害者雇用率を算定します。
実雇用率=すでに雇用している障害を持つ方の人数÷常用労働者数
計算した結果、現在の法定雇用率2.5%を下回っている場合は、障害を持つ方を新たに雇用する必要があります。
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障害者雇用の義務を果たさないとどうなる?
現在の法定雇用率は2.5%ですが、もし体制が整っていないなどの理由が法定雇用率に達していない場合はどうなるのでしょうか。
ここでは障害者雇用の義務を果たしていない場合の主なペナルティを紹介していきます。
毎月の納付金の支払い
厚生労働省の「障害者雇用のご案内」で説明されている通り、障害者雇用納付金制度によって障害者雇用の法定雇用率を下回っている常用労働者数100人超の企業は、障害者雇用の不足1人当たり月額5万円を支払わなければなりません。
常時雇用の従業員100人の場合は2人の障害者雇用が義務付けられているため、月額10万円が行政から徴収されます。
その一方で法定雇用率を超過して障害を持つ方を雇用している企業には以下の支援をおこなっています。
- 超過1人当たり報奨金として月額27,000円の支給
- 超過1人当たり報奨金として月額21,000円の支給(常用労働者100人以下の企業のみ)
- 設備等に関する助成金の支給
障害者雇用のための計画策定・実施
障害者雇用の法定雇用率に達していない状況が続いていない、以下のいずれかの要件に該当する企業は障害者雇用のための計画策定をハローワークから命じられます。
- 実雇用率が全国平均実雇用率未満であり、かつ不足数が5人以上の場合
- 実雇用率に関係なく、不足数10人以上の場合
- 雇用義務数が3人から4人の企業(労働者数150人~249人規模企業)であって雇用障害者数0人
出典:厚生労働省「障害者の雇用に向けて」
また計画の策定や実施を怠っている場合、ハローワークが障害者雇用の状況に応じて適正な指導をおこなうこともあります。
企業名の公表
計画に基づく障害者雇用が進まず、以下のいずれかの条件に該当する場合、公表を前提とした特別指導がおこなわれます。
- 実雇用率が最終年の前年の6月1日現在の全国平均実雇用率未満
- 不足数が10人以上
出典:厚生労働省「障害者の雇用に向けて」
特別指導は9ヶ月間であり、それでも実雇用率に改善が見られない場合は最終的に企業名が公表されます。
厚生労働省の「障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表について」で説明されている通り、2021年に公表された企業は6社です。
指導経過報告書で公表に至るまでの背景を読めば分かるように、どの企業も指導期間中に障害者雇用に対して消極的という訳ではありません。
採用活動を始めたり、実際に数人の障害者雇用を実現していたものの、主に以下が原因で期間内での法定雇用率を改善できなかったことで最終的に公表に至りました。
- 採用活動をしても応募が集まらない
- 障害を持つ方を採用しても職場に定着しない
多くの企業が法定雇用率を守るために障害者雇用を積極的におこなっているため、障害を持つ方に職場を選ばれる確率を少しでも上げられるよう日頃から計画的に対応しておくと良いでしょう。
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障害者雇用の義務を果たすためにできること
障害者雇用の法定雇用率を守るために、日頃からどのような対応に取り組めばいいのでしょうか。
ここでは障害者雇用の義務を果たすための主な対応を紹介していきます。
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ハローワークに求人情報を掲載する
厚生労働省が全国に設置するハローワーク(公共職業安定所)は、職業の安定を図るために求職者や人材が欲しい企業に対して多種多様なサービスを無償で提供しています。
ハローワークには求職中の方向けの障害者専門窓口もあるため、比較的障害者雇用につながりやすいといえます。
有料求人媒体で求人情報を掲載する
有料求人媒体であれば、ハローワーク以上のサポートが期待できるほか、自社の求人情報を多くの求職者の目に触れさせることができます。
ただし、優れた条件の求人情報を掲載する競合も多い傾向にあるため、戦略的なアプローチが必要になります。
特別支援学校に求人票を置かせてもらう
特別支援学校は心身に障害を持つ学生が通う学校であり、求人票を置かせてもらうことで卒業後に就職したい学生にアプローチすることができます。
自治体に近隣にある特別支援学校を問い合わせると良いでしょう。
就労移行支援と連携を図る
採用しても職場に定着してもらえなければ意味がないため、就労移行支援事業所と連携を図ると良いでしょう。
就労移行支援事業所では、障害を持つ方が一般企業に就職するためのトレーニングやサポートを提供しているほか、就職後の定着支援もおこなっているため、障害を持つ方に長く働いてもらえる傾向にあります。
就労移行支援事業所では、もちろん競合の求人情報も求職者のために紹介していくため、少しでも選ばれる工夫を考えることが望ましいです。
今回は簡易的な説明となりましたが、さらに詳しく就労移行支援を知りたい方は以下の記事をご覧ください。
就労支援とは?就労継続支援A型、B型、就労移行支援の違いについて解説
障害者雇用の支援制度
福祉の知識があまりない状態のまま障害者雇用をおこなっても、障害を持つ方に気付かぬうちに負担をかけてしまい、定着してもらえないおそれがあるため、支援制度を積極的に活用することが望ましいです。
ここでは障害者雇用で活用できる主な支援制度を紹介していきます。
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特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金には、以下2種類の助成金が用意されており、返済の義務がないため、障害者雇用のための整備をより整えやすくなります。
- 特定就職困難者コース
- 発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
それぞれ解説していきます。
特定就職困難者コース
特定就職困難者コースは、ハローワークなどの紹介で障害を持つ方を継続的に雇用する企業に対して支給される助成金です。
対象労働者・助成額・助成期間は、以下の通りです。
出典:厚生労働省「雇用保険法施行規則の一部を改正する省令案概要(改正入管法の施行に伴う改正) 」
6時間以上の労働をする障害を持つ方を雇用する場合、最大240万円が支給されます。
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コースの対象労働者・助成額・助成期間は、以下の通りです。
出典:厚生労働省『「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」のご案内』
職場適応援助者(ジョブコーチ)
ジョブコーチとは、障害を持つ方が職場に定着するようにジョブコーチが職場に出向いて、専門的な支援を支援をおこなう事業です。
ジョブコーチには地域障害者職業センターに所属する配置型・就労支援をおこなう福祉事業が雇用する訪問型・障害を持つ方を雇う一般企業が雇用する雇用型の3種類がありますが、そのいずれも助成金を活用することができます。
例えば独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、以下2種類の助成金を支給しており、ジョブコーチの利用で発生する企業の負担を軽減しています。
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まとめ
一定数以上の常用雇用の従業員が自社にいる場合、障害者雇用の法定雇用率を守る義務があり、違反した場合、さまざまなペナルティが発生します。
多くの企業が障害者雇用を義務付けられているため、数ある求人情報の中から自社が選ばれる工夫を常日頃からしなければなりません。
また障害を持つ方を雇用している場合でも、常時雇用する従業員数や障害を持つ従業員のカウント方法は複雑であり、正確に計算できていなければ気づかぬうちに違反してしまうおそれもあるため普段から障害者雇用に力を入れると良いでしょう。